4年に1度。100年は無し。ただし400年はあり。

大月クマ

友人のスピーチ

「あっ、ああ……。

 マイクはちゃんと入っているかね? 

 この前なんか、マイクのスイッチが入っていないまま、話し始めたから恥をかいたから……えっ、ああ……入っている? 早く話をはじめろ?


 スマン、スマン。


 ええ、何から話したらいいか……。

 皆さんもご存じだと思います。今回の主役であるジョン・ポイズンという男は若く、たくましく、友人や家族に恵まれました……えッ何? どこが若いって?


 若いでしょ……誕生日ケーキのロウソクが、なかなか増えなかったんだからな。

 去年は確か……21、そう21本のはず。


 その割には息子や娘に恵まれて、孫まで大きくなって追い越している子もあるじゃないですか。ワシと生まれた年が同じだと言うのに、全く世の中変わったモノです。


 ここにいるジョンは、まだ21歳です。


 まだまだ若者です。まあ、ワシなんか、84回もプレゼントもケーキもいただいておりますが、若さには変えがたいモノがあるでしょう。


 数字的にですがね。


 残念ながらカミさんに先立たれて、この数年は落ち込んでいたようですが……。

 もう時効だと思うので……ぶっちゃけてしまうと、お前さんが盲腸で入院している最中にカミさんの浮気を疑っていたようですが、それはワシでした。

 お前は、真っ先にワシを疑ったが、正解だったんだ。


 もういいだろ? 怒っていないだろ?


 何十年も前の話だ。多分この中の子供が……ん? ああ、なんかこれ以上喋るな! ってサインが出されているので、別の話をしましょう。


 戦時中にワシが配膳係に回されて、くすねたモモの缶詰が腐っていたことは、申し訳ないと思っている。それで食中毒で入院したのは大変申し訳ない。だけど、そのおかげで2週間も前線に行かずに済んだのだから、いいだろ?

 それに野戦病院の看護婦を口説いてカミさんに……


 ああ、スマン。それとは別れたんだな。


 最近、記憶が曖昧になってきて……ああ、その看護婦はワシが奪って、今腕を引っ張っている奴だったな。


 いい加減、止めて座ってか!


 いや、ジョンのいいところをちゃんと言わなければ、ワシは気が済まない。


 ワシらは皆も知っての通り、戦後に学校で教鞭を執った訳だが……彼のいいエピソードを思い出したので、これで挽回させてくれ。


 生徒に手を出すなと、忠告してくれたことには感謝している。


 ちゃんと聞いていなくて、孕ませたときは、金を工面してくれて……」


「あっ、ありがとうございました。

 父のヤンソンさんでした――いいから、そのクソオヤジをつまみ出せ!


 誰だよ呼んだ奴は! 奥さんは別にして、あのオヤジはダメだって言っただろう!


 気を取り直しまして、明るかった父の友人でありました。

 ミスター・ミラー氏です。


 氏はご存じの通り、有名なマジシャンであります」


「いやいや……」


「そんなご謙遜を……」


「このところ、めっきり腕が落ちまして、人体切断でアシスタントを切り裂き、最近血を見るのがたまらなく好……」


「あッ……ありがとうございます。今日は調子が悪そうなので、マジックはお預けと言うことでお願いします」


「そうですか……折角、取って置きの箱抜けを――」


を指さして言わないで下さい! 父の死亡原因は知っているでしょ? 

 84歳の自分の誕生日に、珍しくサプライズに自分でプレゼントボックスに隠れていたのが、忘れ去れて、衰弱死ですよ。箱抜けなんて!」


「あのぉ~……そろそろよろしいでしょうか?」


「すみません。神父様――」


「お取り込み中、申し訳ありませんが……この後、結婚式の予定が入っているので……」


「はいはい。分かりました……とっとと埋めちゃって下さい。

 どうして、オヤジの友人はこんな連中ばかりなんだ!」



<了>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

4年に1度。100年は無し。ただし400年はあり。 大月クマ @smurakam1978

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ