いない。どこにもいない。

「撃たれたのに走るなんて。ばか」

本当にばか。傷が残ったらどうするのよ。

「ねえ。どこに行ったの。はやく通信出てよ」

いっこうに繋がらない通信。分からないままの居場所。降りだした雨。すべてが、悪い方向へ向かっている。

「しなないでよ。助けるから。しなないで」

ひとりごと。雨と同じぐらいの大きさの小声。これ以上声を大きくすると、自分自身おしつぶされる。彼が死ぬのは無理。むり。無理だから。

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