序章:1 痛み分け

 春月11周りの7日目AmberDay~キュフェナ区ペルビエ小路にて~


 主人とわたしが迷宮ビュリンと呼ばれる路地を抜けた途端、眩しいほどの歓声が弾け飛んできた。

 本来は快感と高揚を湧きたたせるそれも、今の我々には全くの逆効果だった。

 主人は、わたしにだけ聞こえる声で言ってきた。

「ニール。これは俺たちの勝ちか?」

「…」

 わたしは否定した。

「なら、負けか?」

「…」

 それも否定した。

痛み分けドロー痛み分けドローなんだよな。これは…?」

「…」

 わたしは答えられなかった。

「そうだな。それも違うな」

 そして主人は、その顔に勝ち誇った笑みを浮かべると、御宝おたからを握りしめた手を高く掲げてみせた。その結果、歓声はさらに大きく弾け、みぞれのような痛みがわたしを襲った。

 その中、ニコやかな表情を維持する主人を見て、薄情にもそんな擬装をせずに済む自分は、とても幸運だと思ってしまった。

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