俺の書いている途中

白夏緑自

戦記物のあやふやな歴史っていいよね

 国教だけではなく、帝国にも貴族が治める各領地を跨ぐための検問は設置されている。


 これを無視して、通ることはほぼ不可能であるし、必ず一度は厳重な取り調べを受けるはずである。


 どのようなルートを辿ったのか正式な記録は残されていないが、数々の目撃証言から複数の候補が挙げられている。


 そのうちの有力候補はとある共通点によって組み立てられた理論である。


 カラリ公国軍が通過した領内は全て、アリア教の敬虔な信徒が領主を務めているないし、アリア教特別領地である。


 つまり、この救援劇はアリア教によって用意された舞台なのではないか。


 カラリ公国の救援について、アリア教はそれを否定しているのだが。

 アリア教によって仕組まれたことであろうと、しかし二国にとって不都合は生じず、やがて歴史に残る伝説として二人の英雄は語り継がれていく。


 歴史に残る伝説には続きがある。

 女のうちの一人。

 紅茶色の髪の女と、領主となり伯爵と呼ばれるようになったスーズダリ伯爵が運命的な再会の末、やがて夫婦となった。


 伯爵夫人の肖像画どころか、名前も残されていない。


 子は成したが、母親に似ているとする記録もなく、こちらも夫婦となった事実と、二人の間の子どもの名前だけが記録として残るのみだった。


 子女の一人にはミラ、と名付けられている。

 忘れ去られていく英雄の名であった。

 


「ここもすっかり変わってしまいましたね」

 紅茶色の髪の女はそう呟き、帰るべき場所へと馬を馳せていく。

「次はミラも連れてきましょうか」

 エルゼール士官学校からここまで、二人なら一日でやって来られる。

 ちょっとした旅には程よい距離だ

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