21/KAC20217作品「21回目」

麻井奈諏

第1話

「さて少し急ではあるがゲームをしましょ」

「本当に急だね」

 二人きりの部屋で互いに無言で本を読んでいたら突然そんなことを言われた。彼女は一つ年上の幼馴染で良く家に遊びに来ては本を読んだりゲームをしたりして入り浸っている。今日もウチにある漫画を読むために朝から来ている。

「まぁ聞いてよ。そんな難しいゲームじゃないしすぐ終わるから。今から交互に最大で3つ順番に数字を言っていって21を言った方が負けってゲーム。私が1、2、3と言ったら君が4、5という感じ」

「難しくはないけどそれって……」

 このゲーム難しくはないけど決定的な穴がある。後攻が絶対に勝つという事だ。先攻側と合計が4になるように言っていけば必ず後攻は20を言える。つまりは21を言わせられるのだ。

「負けた方は勝った方のなんでもいう事を聞くということで」

 ますます訳が分からない。もしかしてきずいていないのか?

「……急にどうしたの?」

「暇だったから。それとも、やりたくない?」

「いや、いいよ。どっちからやるの?」

「どっちでもいいよ」

「……じゃあ後攻で」

「ふぅん。じゃあ1、2、3」

「いきなり始めるんだね。まぁいいや4」

「5、6、7で」

 息をつく暇もなく答える。どうしてだろう、彼女がこういったゲームを仕掛けてきたのが凄く怪しく感じてきた。

「8で」

「9、10、11」

「12」

「13、14、15」

「16」

 ここまで何も起こらず淡々と合計で4つの数字を言っていく。すると、突然彼女はニヤリと笑ってこんなことを聞いてきた。


「で、ちなみに勝ったら私にどんなお願い事するの?」

「え?」

「勝ったら私に何か命令するんでしょ?なにするの?」

「それは……」

 考えてもいなかった。こうやって家に遊びに行ったり来たりする中で今更特別なお願いなんて思いつかない。

「さぁて、きみはどんなお願いをしてくるのかな?」

「……別に命令なんて今更ないよ。いつもどうり互いの家行ってダラダラするだけで」

「だめだよ、命令しなきゃ」

 そういう事か、勝ち確定の勝負に賭けをした理由は勝ち負けなんてどうでも良かったんだ。ニヤニヤとして見つめてくる幼馴染を見て深いため息を一つつく。

 コイツが見たかったのは勝った時に命令する内容がどういったものかを見たかったんだ。勝ったら勝ったでお願いをすればいいし、負けても楽しめるって寸法だ。それもそうだ。こんな簡単なことに彼女が気が付かないと考えた方が浅はかだった。

「あぁ、もう。そういうことかよ。17!」

「ホントにそれでいいのね」

「あぁもいいよ!」

「じゃあ18、19、20」

「21。はいはい、負け負け。命令は何でございましょ」

 21を宣言して負けが決まる。この勝負最初から勝ちなんて存在してなかったというわけだ

「ふーん、存外意気地がないんだね」

「あーあー聞こえない」

 少し不満げな目でこっちを見るが耳を手で押さえて目を逸らしてそっちを見ないようにする。

 今度は彼女の方が大きなため息を一つつく。

「まぁいいや。今度の休み買い物付き合ってよ」

「そのくらいならいつでもしてるだろ?」

「約束して買い物に行くのが重要なの」

「そういうもんか」

「そういうものよ」

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21/KAC20217作品「21回目」 麻井奈諏 @mainass

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