【1000字小説】Mortal Cinema Paradise
八木耳木兎(やぎ みみずく)
【1000字小説】Mortal Cinema Paradise
トルナトーレ王国南部の暗黒街。
また俺はサイレンサー付きの銃で、肥え太った老人の後頭部を打ち抜いた。
俺はこの王国で、罪のない人々の金や命を奪うマフィアたちを暗殺する稼業に就いている。
だが俺が殺しと同時に行っていることは、他のどの殺し屋よりも特徴的と言えた。
すべての市民たちが定期的に無料で作品を鑑賞できる映画館を、報酬で得た金で管理していたことだ。
そして俺の殺しの場は、決まって映写室。
そこに手足を砕いて行動不能にしたマフィアたちを連れてきた。
映画のエンドロールが流れ終わった瞬間、ズドン! というわけだ。
それもこれも、俺と映画の特殊な出会いに起因している。
俺が映画に触れた場所は、シネコンでもミニシアターでもない。
王国近海に位置するバゲリア島に位置する、重罪人が収監される刑務所だった。
獄中出産だったので、俺は共に死刑囚らしい両親の顔は知らない。
代わりに俺の育ての親を務めてくれたのは、刑務所の死刑執行人・パウロだった。
彼が死刑執行を直前に控えた死刑囚に、必ずやることが、囚人の望んだ映画を見せることだった。
「生きていれば、夢を見る権利は誰にでもある」
なぜ人間の屑の死刑囚にそんな楽しみを与えるのか? という俺の問いに、パウロは決まってそう答えた。
「お前は、島を出るべきだ」
十代後半になった俺に、パウロはそう告げた。
その時彼は、詳しく理由を言ってくれなかったが、丁度冒険心も高まっていたころだったので、俺は意気揚々として本土行きのボートに乗った。
王国の都会に出た俺は、南部の多くの土地でマフィアが街を牛耳っていることに気づいた。
バゲリア島に送られる死刑囚も、多くがマフィアに濡れ衣を着せられた善良な市民たちだったのだ。
やがて俺はパウロが、それを知った上でマフィアに反抗できず、死刑を執行せざるを得なかったことに気づいた。
同時に死刑囚に見せていた映画が、悲運の人々へのせめてもの癒しであったことにも。
島から出て二十年後の俺は、死ぬような経験を何度もしつつも、なんとか狙撃の名手として殺し屋になれた。
決して自慢できる稼業ではないが、今の俺は真の死刑に値する暴君たちを殺す死刑囚だ。
そして同時に、必死に生きる人々に映画を提供する映画館の支配人でもある。
処刑と、映画上映。
どちらもパウロから学んだ生き様だ。
彼は処刑人としては偽りだったかもしれない。
だが、映画人としては、王国の誰よりも偉大だったと思う。
【1000字小説】Mortal Cinema Paradise 八木耳木兎(やぎ みみずく) @soshina2012
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