第32話 偏愛の檻【リベ・ファブリカ】

 リベ・ファブリカは、西大陸国リンドレアンに生息する神獣の名だ。

 山の如く巨大な蟹であり、山岳地帯を闊歩していた頃は鮮やかな緋色の甲羅から、あかき山と呼ばれていた。

 しかし、ある時からその神獣は動きを止めた。そのため、体表は植物と苔に覆いつくされ、かつての通り名であった紅色は完全に埋もれ、山岳地帯に居並ぶ山々のひとつに溶け込んでしまった。だが、見分ける術は簡単だった。

 それは、神獣がその下に囲い込んでいるもの。

 その場を離れなくなった要因そのものが目印になるからだ。

 ヴァイス:モンテ約束の地

 最高上位鉱物モ・ノの鉱脈が山肌に露出し、純白色の輝きを放つ山だ。その輝きに魅せられてか、山全体の形状がなだらかで、蟹の甲羅同種を彷彿とさせていたからかは不明だが、神獣はその山を覆うのようにその場に居座り、他の者全てを拒絶するかのように、体表を攻撃的な形状へと変化させた。

 神獣の中で、唯一ヒトに明確な危害を加えた記録のある存在でもある。

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