第二話

「おはよ、夜空さん」と優斗さんは席に着く時に、私に優しい声で挨拶をした。


 え、男が私に挨拶……でも、優斗さんなら……。

 いつもの私なら無視をするが、優斗さんからだったため頑張って挨拶を返そうと勇気を振り絞るがーー。


「お、ぉ………」


 緊張のあまり挨拶ができなかった。


 ぁあー、私のバカァ……せっかく、男を克服できるかと思ったのに……私のチキンぅん……。 


 そう、しぼむ私。


 それに気遣うように、優斗さんは私に。


「どうしたんですか? そんなに落ち込んでて……」

「うんうん、なんでもないの……」と首を振る私。


 その姿を見た優斗さんはクスッと鼻に人差し指を置きながら笑った。


 わ、笑われた……久しぶりに喋った男に笑われた……。


 しょぼんっとさらにしぼむ私。


「えっ!? ちょっと……俺、なんかしちゃった? ……」

「クスって笑ったぁ……」

「ぁあ!! いや、そのなぁ……」と困惑する優斗さん。


 何か、聞いちゃいけないことを聞いてしまった気分だ。


「そのぉ?」

「いや……、さっきの仕草が可愛くてさ……」と照れながら言う優斗さん、を見て、ドッキっとした。

 

 その言葉を聞いた瞬間、恥ずかしいあまりに顔が赤くなり「や、やめてくださいよ……恥ずかしぃ」と手で顔を隠しながら言う。


「いや、ごめんなさい……」と頭を下げる優斗さん。

「や、やめてください……頭を上げてください……」

「そ、そうか……」と頭を上げる優斗さん。


 はぁ……こうやって、男とまともに話したのは何年ぶりだろうか……。

 約2年のはずなのに、もっと昔の気がしてしまうーー。

 隣の席が優しい男でよかった……。


 ホッとした私を見てまた優斗さんがクスッと、私を見て笑う。


「またぁ……」

「ごめんって……」


 ハハハっと笑った後に優斗さんは、玲さんのところへ行ってしまった。


 はぁ……全然緊張しなかったなぁ……。

 何故かとても喋りやすかったなぁ……。

 一体、玲さんってどんな人なんだろうか……。


 私は優斗さんを目で追って、玲さんの方を見る。


「優斗……宿題見せて……」

「そんくらい、自分でやれよぉ……」

 

 そこに翔吾がやって来て。


「2人とも、朝からヒューヒューなこと……」

「「うるさい!!」」と息を合わせて言う。


 ほんとに、仲がいいんだなぁ……。


 そう思いながら、私は肘を机につけて顎を手で支えながら空を見た。


 今日はいつもより、空が綺麗に見えた。


 そのまま、私はまた優斗さんたちを眺めることにした。


「だから、そこは二乗じゃなくて…………」

「はっ! ほんとだっ!!」


 玲さんはとても、可愛らしい。

 きっと、優斗さんの自慢の彼女なんだろうなぁ……。

 って、私何考えてるの!?


「そこも間違ってる、公式使えばいけるから……もう一度やってみな」

「ぇえー、見せてよぉ……」

「それは無理だ……自分の力でやりなさい……」 


 玲さんは机に顎を乗せて「優斗のけちぃ……」と可愛らしい声で言う。


 この短時間でわかった。


 優斗さんはとても面倒見がよくて優しい人で、玲さんは少し抜けていて可愛らしい人だということ、翔吾はいまいち分からないが、優斗さんとより玲さんとの方が仲が良さそうな? そんな気がした。



 それからは、優斗さんは毎朝挨拶をするようになり少しずつ喋る量も増えてきたーー。

 気づけば、「さん」から「くん」付けで呼ぶようにもなり、私から挨拶もするようになったーー。


 そして、ある日のことだったーーいつもと優斗さんが違って見えたのはーー。

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