君と嘘つき 4
僕の身体は、勝手に震え出す。
それは恐怖から来るものなのか、あるいは湧き上がる怒りから来るものなのか。
「……稜。何がしたいんだ。関係のない人を巻き込んで……一体、何が面白いんだよ」
――恐怖? 怒り? その、両方だ。
「関係がない? そうかな? 面白いじゃないか。四季の、いつも澄ましていたお前の、そんな顔が見れるんだから。ホラ、心が動かされたんじゃないのか? こんなに楽しい遊びはないだろ? だってお前は、自分に心が残っているかどうか知りたくて、こんな馬鹿げた仕事をしてるんだろ? これまで受けた依頼で、これほど心が動いたことは無い筈だ。そうじゃないか?」
「……何を言ってるんだ」
「分かっているくせに。お前がこのお仕事を始めた時から、俺は分かっていた。光によってこじ開けられて手に入れたと勘違いしているお前の心が、光を喪ってもまだ残っているその欠片を失いたくないって、失ってはいないかって、確かめたくて浅ましく足掻いてたんだろ? 四季、お前は俺と同じだ。良く似ているよ。突然手に入れたそんな即席の心なんて簡単に失くしてしまいそうだもんな? お前のまやかしの感情は簡単に手放せるモノだって分かっているから、必死になってしがみついているんだよ。ソレは、そんなに良いものか? そんな偽りの感情を眺めているのは、そんなに楽しいのか? 確かめ終わったなら、もういいだろ。無かった頃を思い出せよ。心なんて枷でしかないそんなつまらないモノ、俺とお前には似合わないし、邪魔なだけだろ」
何をそんな馬鹿げた事を言っているんだと即座に言い返すことの出来ない僕が、いた。
半分は、その通りだったから。
閉じ込めていた僕の心を動かしたのは、光だ。そうして動き始めた感情は、自分の意の
心を殺し感情を持たず、自分も他人も全てがどうでも良かった頃の僕は、確かに何にも縛られず自由だったんじゃないのか?
「もとの身軽なお前に戻してやるよ。また俺が同じようにお前の世話を焼くのは簡単だけど、それじゃあ少しつまらないからな。せっかくだから今回は俺と楽しもう。三日以内に見つけられたら好きにして良いよ。って言っても、それまでに見つけられなかったら前と同じ俺が世話を焼いたみたいなもんだけどな」
稜はそう言うと、持っていたスマホを僕に向かって投げた。勢いよく僕の手の中に飛び込んできたそれを、覗き込む。
そこに映し出されているのは……。
『四季さんって本当は他人なんかどうでも良いデショ? ぶっちゃけ嫌いだよね? だから敢えてこんな仕事してんだろうなってオレ思ってたんだよね。違う? オレは笑顔で、それこそ全力で自分を作ってるけど、それは他人に好かれたいからで拒否してるわけじゃないから……そう考えると四季さんって面倒くせーよね?』
あの、笑顔を失わせる訳にはいかない。
――宗田くん。
力なく、ぐったりと崩れるような姿勢でベッドに横たわる姿からは、意識があるようには見えなかった。
稜は、知らない。
僕のもう半分を……。
稜と同じように僕も他人に興味はない。
誰もが僕を知るその通り、確かに他人なんてどうでも良いし、面倒なものは嫌いだ。
だが稜とは違い、僕には最初から心が無かった訳じゃない。
心は、あるんだよ。
僕の中に、あったんだ。
僕は、大切な物を失くすのが怖くて心を捨てただけの卑怯で弱いだけのつまらない人間だ。それをもう一度取り戻してくれたのが、光だったんだ。
掌に掬い上げて握りしめた大切な物は、心と結ばれる。それはもう僕の一部だ。
僕がこの仕事を始めた頃は、稜の言う通りだった。再び壊れてしまった僕の心を繋ぎ止めるだけにしていただけの、単なる感情の確認作業でしかなかった。
いつしかそれが、心の欠片を集め直し感情と向かい合うことに変わったのは、糸と宗田くんという二人の存在があったから。その二人が気づいた時には僕の掌の中にあると知った頃から、僕は自身をようやく再び取り戻すことが出来たんだ。
……稜。
今目の前に居るこれが、僕だ。
そして君を不快にさせているそれは、僕ではなく稜の心なんだよ。
「悪いけれど、負けるつもりはない」
スマホを投げ返すと僕は稜に背を向けた。
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