21回のスキ

模-i

窓から春の風が流れ込む、二人きりの教室

「で?どうしたの、急に呼び出して」


 風上から、ふわりとした声が降りかかる。椅子に座る君を見つめて、俺の心臓はとめどなくバクバクと脈打っていた。


「好きです!」


 俺は、君の目を直視できなかった。俯いて返答を待つ。


「ふうん、好きなんだ。」

「うん、好きだ。」

 俺は即答した。顔は真っ赤だ。

「ありがとう。嬉しい」

 その微笑みだけで、俺は救われた。


「どこがどう好きなの?」

 前言撤回。微笑みながらそれを聞くか。

「色々好き。いっぱい好き。」

「具体的にお願い。一応、私のどんなところを好きになってくれたか、確認しておきたいの」

 俺は君の姿を思い浮かべる。

「優しい性格、柔らかい声、笑った時のえくぼ。メガネが似合うとこ、本を読んでるとこ、笑ってるとこ。全部だ」

「ふふ、前と一緒ね。それに笑ってるところが二回入ってるよ」

「あれ」


「ともかく、好きなんだ。君が大好きなんだ。隙あらば君を考えてる。そのくらい好きなんですきっと」

「もう、……くん、言い過ぎだよ」

「何回でも言わせてほしいんだ。そのくらい君が好き。大好き。超好き。」

「ほんと、しぶといよねー……くんも」

「そうだね」


「もし、仮にの話だけど」

「うん」

「デートには連れてってくれる?」

「好きなところに、どこへでも」

「頼もしいね」

「雪の季節はスキーに行こう。雨の日は……そうだな、結局お家デートでお茶を濁す気がする」

 俺は、頭をフル回転させる。


「ねえ、そんなに私が好きなの?」

「そうだ」

「これで何回目だと思ってるの?」

「一年生の五月から、八月を除いて毎月。……二十一回、か」

 俺は指を折りながら答えてみせた。

「もうちょい待つことはできないの?」

「たしかに、もうちょいスキマをあけるべきだったかもな」

「もう、両手両足じゃ数えられないね」

「普通は足の指をカウントしないけどな」


 沈黙。先に口を開いたのは君だった。


「ねえ、本当に嬉しいんだ。それだけは信じてほしい」


「……私で、いいの?」

「じゃなきゃ、こんなことしてない」

「はじめに好意を寄せてくれたから、ずっと私に告白を続けるの?」

「いや違う、今までもこれからも好きだからだ」

「ふふ、数奇な運命、みたいね」

 彼女はそう言って笑った。


また沈黙。


「なんか返事してよ」

「ごめん、面白すぎた。返す気概が足りないらしい」

「……嘘」

「ごめん、嘘ついた」

「うそうそ冗談、話の続きを」


「さっきから思ってたんだけど」


「……くん、スキの使い過ぎは良くないよ」

「そんなことはない」

「だって、たくさん言ったら、それだけ一つのスキの意味が薄くなっちゃう。安売りのスキなんていらない。百回も千回も好きって言われたら……」

「薄まらない。絶対にだ。ソレを言った数だけソレは存在する。ソレは何倍にもなるんだ。それに俺は、『スキ』と言った回数を完璧に把握している。全てのスキを大事にしている証拠だ」


「じゃあ、何回言ったの?」


「やっぱり君が好きだ。付き合ってくださいこれでちょうど。」


彼女は、最大限の微笑みで応えた。

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