第2話 はじまりの町、ポーリスにて

 船が港に停泊した。

 どうやら私が助けられた船は小さな運航用のものらしく、乗客は少なく比較的早く降りることができた。助けてくれたという、ガタイの良すぎる海男な船長さんにお礼を告げると、微妙な顔をされた。

 なんでよ!? 酷くない!?

 だけど、そんな思いは目の前に広がる光景を見たらどこかに行ってしまった。


「うわぁ! すっご!」


 規模は小さいけど白い石レンガで造られた建物が並び、『かつての世界』では見たことのない、綺麗な虹色の羽根をした鳥達が飛んでいた。

 その町の中を、様々な種族の人々が行き交っている。

 獣人に、有翼人に……エルフ等々。


 こんなの完全にファンタジーの世界じゃない!!


 本当に自分が『転生』したのだと、この瞬間になってようやく実感が湧いてきた。


「イグナートさん、どうしたの?」


 惚けている私に、女の子が心配そうに声をかけてくる。出会ったばかりだというのに、心配かけてばかりだ。ちょっと自分が情けなくなりつつ、なるべく笑顔で答えた。


「いいや、ちょっと驚いてさ。私……僕……いや、俺? こういうの初めて見た……みたいだから? ベルちゃん」


 羽根のついた女の子、ベルちゃんは可愛らしい笑顔で返してくれた。かわいい!!

 ちなみに、最後に言葉を濁したのはさすがに『転生してきたから』とは言えなかったからだ。それこそ、頭の病気を疑われかねないし。いや、もう疑われてたりしないよね?


「イグナートさん、大丈夫?」


「だ、大丈夫さ! ありがとう」


 二人でやりとりをしていたら、リュドヴィックさんが不機嫌そうな顔をしてやって来た。


「何をしている? そろそろ船から降りるぞ、ベル。……ついでにイグナート、お前もな?」


「うん、リュド兄!」


「あ、はい」


 私はついでなのね……。ちょっと冷たすぎない?


 まぁでも仕方ないのかな? と思うことにした。ベルちゃんが教えてくれたんだけど、リュドヴィックさんとベルちゃんは義理の兄妹なんだって。そう考えると、いきなり謎の親しくしているのは、お兄ちゃん的に面白くないのかも?


 でも、嫉妬してくれるお兄ちゃんとかイイよね~。


 呑気にそんな感想を抱いていると、リュドヴィックさんが私を睨みながら尋ねてきた。


「どうした? お前は早く病院に行くべきではないのか?」


「そ、そう……ですね! え? 病院てどこに?」


 初めての土地の病院なんて、わかるわけがないじゃない!

 私の様子を見てか、リュドヴィックさんは深いため息を吐くと告げた。


「仕方ない。オレが病院まで連れて行ってやるから、大人しくついてこい。いいな?」


 あれ? 意外と面倒見がいいのかな? 世話焼きなところもお兄ちゃんって感じだ。いいなぁ~。

 

「お前、本当に大丈夫か?」


 返事をしなかった私に、ほんの少しだけ心配そうな顔をしてくれるリュドヴィックさんに思わずときめきながらも私は返答する。


「ダイジョウブデス?」


 心配して着いて来ると言うベルちゃんをたしなめて、私はリュドヴィックさんの案内でこの街唯一の病院へと連れて行ってもらった。

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