44 彼女と予行演習の後
今日は実際にやっていない種目が結構あった。
そのため本来の下校時間は四時とかなのだけど、今日は三時に家に帰ることが出来た。
そして俺は今、家で料理本を読み漁っている。
立花が家に来てくれるようになってから、うちの参考書しかなかった本棚に料理というジャンルが追加された。
実家の方には漫画も置いてあるのだけど、持ってきていない。
単純にもう読んだからいいや、って思っているからだ。
一応ゲームは持ってきている。
でも全然遊んでいないな…今度立花と一緒に遊ぼうかな。
閑話休題。
なぜ俺が、料理本を読み漁っているかというと。
予行演習が終わった途端、俺と一緒にいた立花はクラスの皆に囲まれた。
俺が先に隣に居たにも関わらず、突如できた輪によって俺は外に追い出された。
なんか不服である。
話を聞いてみると、この後一緒に遊びに行かないか、とのお誘いだった。
立花が俺の方をちらっと見て、やんわりと断ろうとしていたため、俺は立花の目を見て首を横にぶんぶん振っておいた。
たぶん意図は伝わっている筈。
いつも立花にはお世話になっているし。
彼氏でも無いのに彼女を独占するわけにはいかないのだ。
たまには友達と一緒に遊んでほしいのだ。
そして俺は、立花がいない間に夕飯を作って待っておくことにしたのである。
彼女に、俺は君のおかげで出来るようになったんだよ、と伝えるため。
何かいいものは無いかと料理本を読んでいるのだが…。
彼女の料理本は基本的にレベルが高い。
どれもこれも難しいのだ…。
だから俺でも出来るのを見つけるのに少し苦戦した。
あれこれ悩んだ挙句、俺が今から作るのは、ミートソーススパゲッティである。
なぜこれにしたかだけど、何故か出来る気がしたのである。それだけである。
「よし…。美味しいものを作ろう。足りないものは、今から買いに行かなきゃな」
俺は決意の胸に、家を飛び出した。
☆☆☆☆☆
「…。悪くない。でも立花の作ったやつのほうが美味しい。…なんでだろう」
あれから数時間後。
足りないものを買ってきた俺は、必死にミートソースを制作していた。
上手くできたと思ったけど、圧倒的に彼女が作ったほうが美味しい。
何故だ…。何故なんだ。レベルが足りないから?
この圧倒的な差はなんなんだ…。
また、ああでもないこうでもないと試行錯誤していたら、ついに彼女が家にやって来た。
「お邪魔します。…あれ。いい匂いがしますね」
俺は手を止めて急いで立花のところへ行く。
「いらっしゃい立花。今日は俺が夕飯を作ってみた」
俺がそういうと、彼女は目を見開いた。
「ほ、本当ですか!ゆ、結城さんの手料理が食べれるなんて…。う、嬉しいですっ。け、怪我とかしてないですか!」
立花が俺の手を取って確認をしている。
「大丈夫、大丈夫。もう食べれるけど、食べる?」
「食べますっ」
俺が苦笑いしながらそういうと、即答が返ってきた。
「じゃあ行こう」
いつも通り二人で準備をして、向かい合って席に着いた。
立花は終始ご機嫌で嬉しそうだった。
「「いただきます」」
俺は度々味見をしているから、味は分かっていた。
まあ。美味しい。
百点満点で言うなら、よく言って七十点くらい。
ちらりと立花を見てみると、頬を赤くそめて可愛らしい瞳をうるうるさせていた。
「た、立花?」
「結城さん…。美味しいですっ。今まで食べたミートソーススパゲッティの中で一番美味しいですっ」
「そんな訳…」
俺が否定しようとしたら、立花がマジな顔をしていたので言葉が詰まった。
本当に嬉しそうにしているので、否定の言葉よりお礼の言葉を言っておくことにした。
「あ、ありがとう。喜んでくれて嬉しいよ」
「はいっ!本当に…。これのおかげで明日は頑張れそうですっ」
「は、ははは…」
食事を終えた後、立花はいつも以上に甘えてきた。
余程手料理のことが嬉しかったのか、ボディタッチが多めである。
俺は優しく彼女の頭を撫でながら、明日のことを考えていた。
「結城さん。明日のことで緊張していますか?」
「緊張…。しているのかも。皆にかっこ悪い所、見せたくないからかな」
「それが理由なんですか?」
立花は俺の目を見て、何か別の言葉を言って欲しそうにしていた。
何故だか分からないが、なんとなく言うべき言葉が浮かんできた。
「…立花に。格好良い所、見せたいからかな」
立花は俺の言葉を聞くと、頬をリンゴにして目を伏せた。
口がにんまりするのを耐えるように、もごもごしている。
俺はそれを見て笑って、立花の髪をまた撫でた。
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