45 彼女と体育祭
今日の天気は、晴れ。
雲二割空八割と、なかなか良いお天気である。
生徒会長、体育祭実行委員長、そして校長の挨拶を終え、開会式が終わる。
元気そうな坊主の先輩が前にやって来て、皆で準備体操をする。
にこにこしながら体操をする先輩は良い人に違いない。
準備体操が終わると、音楽と共にアナウンスが流れる。
あ。この音楽知ってる。有名なやつだ。
名前はなんだっけ。
思い出した。Bartender だ。
「それでは、第一種目の徒競走です。選手の方は入場してください」
選手の中には悠斗が居た。
昨日も思ったが、鉢巻きをした彼は爽やかでイケメンである。
さっきまでへらへらと笑っていたのに、スタートラインに立った途端マジな顔になった。
「位置について!よーい…どん!」
先生の空砲の音と共に、誰よりも早く悠斗が動き出す。
陸上をやったことが無いから批評なんて出来たものじゃないのに、俺から見てもとても綺麗なフォームで颯爽とグラウンドを駆けていく。
ぐんぐん後ろの人たちとの距離を伸ばして、あっという間にゴールテープを切った。
走り終えた悠斗は、疲れた素振りも見せずに一位の旗の下に座った。
圧勝過ぎた。
朝話した時も「元陸上部だから衰えてるってー」とか笑って話してたのに。
予行演習の時点でも速かったのに、あれは本気じゃなかったのか。
悠斗はこちらの視線に気づくと、ドヤ顔でサムズアップしてきた。
本当に凄いと思ってしまったので、素直に拍手をしていると、照れくさそうに笑っていた。
どっちやねん。
その後何種目かあったけれど、俺はあんまり選択していないので中々出番はやってこなかった。
中にはほとんど出ている猛者の方もいらっしゃった。
その猛者とは悠斗のことなのだが。
「やりすぎじゃない?疲れるだろ」
俺がそんなこと聞いたら、疲れた素振りも無い笑顔が返ってきた。
だめだ。体力お化けだ。
「後半はあんまり出ないから良いんだよー。それより葵、お前次、玉入れだろ?全体種目だから俺も出るけど、葵の彼女と一緒にやる種目のために体力残しとけよ」
「だから彼女じゃないっての。玉入れでは疲れないだろ。多分」
「多分なんだ?」
「やかましい。悠斗だって選抜リレーっていう大役背負ってるんだろ。体力残しといた方が良いよ」
「ほいほーい」
そんな事を話していると、大きなアナウンスがグラウンドに響いた。
「それでは、第五種目の玉入れです。選手の方は入場してください」
最近のヒットソングと共に、球を二個ずつ持った俺達と、大きなかごを背負った生徒が二名入場する。
ん?かごを背負った生徒の一人って…佐藤じゃないか?
体育祭実行委員というのは、こんな事もするのか。色々お疲れ様です。
白いかごを背負っているし、白組の球を避けるんだな。
失礼だけど、あまり運動出来そうな見た目じゃないから、怪我はしないで欲しい。
ついでに白組の猛攻を避けて紅組の勝利に貢献してください。
「位置について…よーい、どん!」
聞きなれてきた空砲の音と共に、あっちこっちに球が行き交う。
赤いかごを背負った坊主の生徒は、全力で逃げているが結構球を入れられている。
俺は何故だか分からないけど、球をコントロールして投げるのが得意なので落ちている球を拾いながらぽいぽい投げていく。
たまに入らないけれど、それでも良く入ってくれるのでそれが快感だ。
「そこまで!」
空砲と先生の声で、皆が球を拾って最初の位置まで戻る。
お楽しみの数を数える時間だ。
坊主の生徒と佐藤が、かごに手を入れてぼーるを上に投げていく。
周りの生徒が楽しそうに「いーち、にーい、さーん、しーい…」と数えている…のだが。
佐藤は七球で白い球を投げなくなり、エア投げをしている。
あれ?もしかしてあの猛攻を逃げ切った?
彼女は実は運動が出来る奴だったのかも知れない。仲間だと思ったのに。
「五十…五十一…はい、以上です。第一回戦は紅組の勝利!」
紅組の皆が叫んで喜んでいる。
点差をつけて勝つことが出来た。良かった良かった。
そのまま第二回戦、第三回戦と白組を位置を入れ替わったりして戦ったのだが、いずれにせよ紅組の圧勝だった。
退場して悠斗の方まで行ってみると、少し元気が無かった。
「悠斗…球入れられたか?」
「ああ。毎試合何球か入れたよ。だけどあのかごを持った女子が速すぎて、皆全然入れられてなかった」
「あの女子は佐藤って言うんだよ。悠斗からしても速かった?」
「ああ。本当に速かった。まじ悔しいわ。あとお前入れすぎな」
「…ははは」
ちらりと佐藤の方を見てみると、紅組のテントで女子に囲まれておどおどしていた。
運動してなかったら、こんな感じなのにな…。意外すぎてびっくりしてしまった。
視線を少しずらして立花を見てみると、頬を赤く染めて俺を見ていた。
手を振ってみると、小さく手を振り返してくれた。
「はははっ葵の彼女顔赤くなりすぎだろ」
「だから彼女じゃないっての」
俺は恥ずかしいのを誤魔化すために、悠斗の頭を軽く小突いておいた。
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