10 彼女の横顔
小指を出した時はなぜか意識しなかった指切りげんまんだが、いざ指が絡まり彼女の目を見ると、途端に自分から意識しだしてしまった。
だんだん自分の顔に熱を持つのがわかる。
相手はアイドル顔負けの、容貌が優れに優れた人間で、性格もとても良い完璧超人なのだ。
それに、相手と小指を絡めている。
思い出せば手を取ったときも、羽二重肌とはこの事なのだと、そう表すような滑らかな手。
華奢で小さいが、とても綺麗な手だ。
自分はこんなにも意識しているのに立花は、針千本飲ますと物騒なことを言っている。
指を切ると、立花は何も言わず、ただ俺の目を見ている。
彼女は腕を後ろで組んで、身長差のせいもあり、上目遣いという形で俺を見ている。
非常に居た堪れない。
落ち着かせるためにも、俺から言葉を発す。
「あー。その…帰るか」
「そうですね」
鈴を転がすような声が返ってきた。
帰るとは言ったものの、道を知らないので彼女に付いていく形になる。
俺から歩き出してしまったので、どうにか彼女の後ろに回らねば、とそう思ったとき。
「そっちじゃないですよ」
立花が少し笑いながらこっちこっちと、手招きする。
「あ…ご、ごめん」
「ちゃんと付いてきてくださいね」
そう言って彼女は歩き出す。
恥ずかしくて、ポケットに両手を入れて、下を向いて歩く。
最初は二人分の足音が聞こえていた。
でもなぜか途中から自分の足音だけしか聞こえなくなった。
不思議に思い、頭をあげると、目の前に立花の顔があった。
「うわびっくりした」
ほんのりと相手の匂いがわかる距離。
彼女からほんのりと、女性特有の良い香りがした。
ほんと、なんでこんなに意識してるんだろ。
自分でも思うくらい自分の考えが気持ち悪い。
「ど、どうして止まったんだ?」
そう聞くと、彼女は少し困ったような、不思議そうな顔をする。
「今後私を守るために同行するんですよね?下を向いて守れるんですか?」
「そうだったな。ごめん。前を見るよ」
俺がわざとらしく顔を前に向ける。
だがそれでも彼女は動かなかった。
また彼女は不思議そうな顔をする。
「う、うん?どうしたんだ、何かあったのか?」
俺がそう問いかけると、彼女は呆れたように話す。
「隣に並ばないんですか?」
「え?」
彼女が何を言っているのか、あまり理解できなかった。
後ろから見守るように行くのは、確かにストーカーみたいで気持ち悪いかもしれないけど、隣に並んで歩くのは、それもそれで嫌なのでは…?
「並んで嫌じゃないのか?」
「? 守ってくれるのに、なんで嫌だって思うんですか?」
ああ、はい。そうですね。
ごめんなさい。そんな澄んだ目で見ないでください。
さっきから変な心配ばっかりしてました。
もう堂々と隣を歩かせてもらいます。
「ごめんな、ちょっと考えすぎてた」
「そうなんですか。さあ、帰りましょう」
セリフ逆になってますよ、そう心の中で突っこんで、少し彼女の横顔を見る。
ほんの少し、笑っている気がした。
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