150話 お祭り後の反省会




「それにしても丸山の奴、悔しがってたなぁ」


「まさか胸の差で負けたとなればねぇ。カメラ判定であそこまで映っていれば文句も付けられないわ。丸山くんだってルールを知ってるからそのあとはいさぎよかったじゃない」


 加藤くんと千景ちゃんが笑って、私は顔が赤くなる。


 ほとんど覚えていないけど、胸元にテープの感触があった。それが実際に勝負の結果だったんだ。


 私は泣き崩れていたから気づかなかったけれど、実は1位と2位の勝敗はすぐに出なかったんだって。


 体はほぼ横一線。ビデオで撮られていたのをスローで見て、数センチ。そう、二人が言っているように、胸の差で5組勝利という結果だったんだ。


 これが2年生の夏当時の、崩れたぺたんこ胸のままだったら、この勝負の結果は変わっていたかもしれない。


「スタート前にはみんな『アンカーで楽勝』だと笑っていたはずです。それが途中から3位以下が戦意喪失するほどでしたからね。とても5年のブランクは感じられなかったですよ。午前中の一瞬でそれを見抜いた内田くんの読みは的確でした。本当に小6の時の逆転劇を見ているようでした」



「ちょっと待ってください。先生は松本さんの足がそれだけ速いことを前から知っていたってことですよね。どうしてそれをもっと早く……」



「それはね……」



 私は加藤くんに自分の足を説明した。当時一度骨折していること。次に足首を壊したら歩くこともできなくなること。前年の夏からリハビリ途中だったことも。


 だから今日の勝負は、千景ちゃん・先生・私の三人だけが知っていた、本当にギリギリまで迷った判断だったのだと。


「そんな危ないことしていたんかよ……。そんな風には全然見えなかった」


「そうだったかな?」


「走る前の花菜の顔、今と違って完全に目が座ってた。まさか順位を下げてまで待っているとは思わなかったし。内田も言ってたけど、あんなの誰にも真似できないよ」


 千景ちゃんからのバトンパスの直後、内田くんと先生以外は誰も予想していなかった大外から一気に二人抜き。カーブを曲がり終えてさらにスピードを上げて私が丸山くんとの一騎打ちになったあと、3位以下との差は広がる一方だったって。


 それはそうだよ。「文芸部の松本花菜」仕様に本来のアンカー選手を前に持ってきていたから、あんな展開は想定外だろうね。


「次回からリレーのアンカーは胸が大きい女子になるかもな」


「でもね、胸が大きいって男子が思っているほどいいことばっかじゃないのよ? ねぇ花菜? 去年の夏から急にブラとか買い替えたもんね? それにあれは花菜だからできたこと」


「そ、そうかな……」


 去年の夏休み合宿から私は先生に支えてもらいながら変わってこられた。その集大成が今日だったのかもしれないよ。


「去年の文化祭に今年の体育祭と、もう花菜は3年5組の絶対的なヒロインだからね。先生、学校で迂闊なことは出来ませんよ?」


「本当だよなぁ。卒業までは大人しくしてないとなぁ」


 ゴールで泣き崩れていた私。先生は抱きしめてくれていたし、他のみんなも駆けつけてきて声をかけてくれた。



 閉会式で、優勝旗は5組リーダーの内田くんが壇上で受け取ったけれど、練習どおりに列には戻らずに、そのまま救護テントに持ってきてくれた。


「これは間違いなく松本が受け取るべきだ。無茶言って悪かったな」


「もぉ、これっきりにしてよぉ!」


「次の体育祭は3年後だ」


「え……、あ……そっかぁ」


 内田くんの動きに何事かと放送委員の子がマイクを持ってきたもんだから、このやり取りもスピーカーから放送されちゃった。


 全校生徒に先生たちも加わった笑い声と拍手の中で、一番上に書かれた優勝チームの書かれた札を確かめる私。


 広報に載せる写真が救護テントの中で優勝旗を内田くんから渡された時のシーンだなんて笑っちゃう。


 テントを出たとたん、待っていたクラスのみんなからされた胴上げはもちろん初めての経験。今日1日でいくつも思い出が作れた。


 高校生のイベントは悔いなくやりきった気がする。あと残るのは受験という現実だけかな……。


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