91話 背中を押してもらえるなんて
「松本さん。この長谷川君は私の高校時代の教え子なんですよ」
校長先生の突然のカミングアウト。そんな重要な情報は知らないもん。私はこの部屋で何を言われるかビクビクしていたっていうのに……。
「ええっ??」
「そう。だから長谷川君の高校時代、特に受験の悩みはよく聞いていました。表には出せない悩みもよく聞いたもんです。あの成績の長谷川君がなぜ自宅から離れた学校を自分で選んだとかね。三者面談のために理由を一緒に考えたものですよ」
「校長先生、そこまでバラしますか?」
長谷川先生が頭をかく。その「理由」を私が知ったのもつい最近だというのに……。
受験の時に、三者面談だって本当の理由は話せないだろうからね。
「長谷川君が、あの当時から年の離れた女の子への気持ちを持っているというのは知っていました。私自身、妻とは年が離れていますから、その気持ちを否定しようとは考えなかった。このまま大きな問題を起こさないように大事に暖めながら大人になって欲しいと思っていましたね」
つまり長谷川先生、ううんお兄ちゃんが私のことをどんなふうに思っていたかを当時から全部知っていたと言うことだよね。
「確かに長谷川君と松本さんは、本校では担任教師と生徒という関係になる。しかし法律的には長谷川君はクリアしているし、松本さんもあと数ヶ月で成人として認められる年齢でもある。そこでだ……」
校長先生は、そこで一息ついて私たちを見た。
「私は二人の気持ちが一番大事だと思っている。それに松本さんの家庭事情もある。住居や住所についても話は了解した。社会的に必要であれば前倒しで籍を入れる必要もあるかもしれない。その代わり、あと1年と少し。無事に高校を卒業をして欲しい。二人ともそのくらいは分かるね? 長谷川君は松本さんの学校生活を支えると同時に、人生の先輩として松本さんを導いてあげてください」
「はい、分かります」
この話の流れ、予想していたような反対されるのとは全くの逆方向みたい。どうやったらこの事態をうまく収められるかというような、背中を押されているというような。
つまり、両親を失った私のこれからを支えていきながら、一緒に人生を歩いていく相手。それが、隣にいる長谷川先生となることを、校長先生は認めてくれているんだって。
「校長先生、約束します。学校の中では、私と長谷川先生は一生徒と先生です」
「うんうん。それでいい」
校長先生がうなずいている。
「もしかしたら危ない時もあるかもしれません。いろんなご迷惑やご心配をかけてしまうかもしれません。でも、必ずこの学校はきちんと修了して卒業します」
「それで十分ですよ。長谷川先生、いい生徒に恵まれましたね」
校長室の中に、再び柔らかい空気が戻ってきたようにその時の私には思えたの。
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