62話 これで少しは楽になるから
たっぷり30分近く。俺も体の芯まで再び温まってから部屋に戻って、今度は最初から浴衣を脱がせ、布団の上にうつ伏せになってもらう。
最低限の肌着の他は脱いでもらった花菜を背中側から見て、自分の記憶が正しかったことを確認する。
海で見て気になっていたとおりだ。キャミソール越しでも分かるくらい左右の肩甲骨の位置が上下にずれている。
ずっと左足を│
大学生の時に近くのスポーツジムのアシスタントでマッサージやトレーニング選手のクールダウンを手伝わせてもらった経験だけだけど、少しでも花菜の身体を楽にしてやりたい。
「少し痛くても我慢するんだぞ?」
「うん? あっ、イタタタ……」
問題の左足、それをかばっている右足。「腰のくびれなんか無いよ」と自嘲気味だったけれど、実際はそうじゃない。骨盤周りの筋肉が硬く張っているだけだ。
指先に力を入れて固くなった筋を開放してやると、それだけでもきれいなウエストラインが少し戻ってきた。
あれだけ重い本を持っている腕も本当は筋肉質で細い。背中から肩にかけて入念に硬いところをもんだ。
「い、痛いぃ……」
「今までガチガチに固まっていたいた筋肉をほぐすんだ。今は痛いかもしれないけど、すぐ消える。もうちょっと」
よかった、心配だった背骨まわりのヘルニアや他の骨の変形などは見当たらない。
逆に女性としてはしっかりした骨格をしている。これで筋肉さえ戻してやれば、疲れも嘘のように消える。
「あうぅ……」
「よし、整体はこんなもんかな。次は肌荒れだ」
「えっ? ひゃぁ……冷たい……」
薬用の保湿クリームをたっぷり使って、肌を整えていく。
なんだかんだ言ってもまだ10代だ。高価な美容液などはまだ要らない。保湿さえしっかりしてやれば、きめの細かさやしっとり感も戻る。
「今度は前だな。仰向けになれるか?」
「うん」
おとなしく天井を向いた花菜、今度は足の方から塗り込んでいくと気持ちよさそうに目を閉じた。
「もう痛くないだろう?」
「うん、不思議……。なにも着てないはずなのに暖かく感じるの……」
「本来の血行が戻ったんだ。でも頻繁にやってやらないと、また元に戻っちまう」
足が終わってお腹に手をかける。
スポーツをやっているわけでもないのに無駄な肉がほとんどない。マッサージを続けて本来の体格を取り戻せば、自慢できる理想的なプロポーションになるだろう。
「胸、ちっちゃいし恥ずかしい……」
「さっき自分で何したか忘れたなんて言うなよ?
これもそうなんだって。ほら、手をどかして」
「お兄ちゃん、ちょっと怖いよぉ」
キャミソール着用とは言っても女の子が気にする部分ではあるだろうから、追加でタオルを1枚かけた。その上から柔らかい膨らみに手をかけてすぐに分かる。
花菜のそれは見た目に影響しやすい脂肪は少ない。けれど実際はそうじゃない。将来子どもを授かって、自分の母乳で育てられるだけの組織の方がきちんと発達しているかが本当は重要で、もし産婦人科の医師が見れば理想に近い割合だと言われるだろう。これ以上無理に大きくする必要はない。
だけど、せっかくの宝物も姿勢が悪くて土台の筋肉が痩せているから高さが出ていないだけだ。こっちも一時的だけど痛がらない程度に整えてみる。
あとは定期的なマッサージと適度な運動で筋肉が付けば見違えるはずだ。
「いま、ブラジャー何カップつけてる?」
「Bカップだよ……」
「あとで試してみな? たぶん1サイズ以上は上がってると思う」
「えっ?」
「ちゃんと下着屋さんで測ってもらえ? さすがに俺にはそこまで出来ないからな……」
最後に、残っていた保湿クリームとアメニティにあった化粧水を使って顔の表面を整えて終わった。
「どうだ? 体が軽くなっただろう?」
そう言いながら、傷めてしまっている左の足をそっと撫でてやる。
「本当……。ありがとう。嘘みたい」
「この足首、骨は分からないけど、ちゃんとリハビリをすれば、もっと柔らかくて強い足首になる。また元気に走れるようになる。一緒に病院で診てもらおう」
これからは、彼女のマッサージも自分の仕事になりそうだ。だけど、それは別に負担とは思わない。環境は変わっていたけれど、俺たち二人は昔に戻っただけだなのだから。
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