4章 新しい担任は…えっ!?
15話 同じ字をかける人はいる?
「2年は5組かぁ」
2年生の始業式の日、私は校庭に貼り出されていた名簿を確認したあと、一人で教室に向かった。
発表されたクラスのメンバーを見ても、あまり驚くことはなかった。
大体の子は自分の名前を確認して無言で校舎に入っていったけれど、中には仲良しとクラスが離れてしまったと掲示板の前で悔しがっている風景もあった。
中学で変えた私のイメージはさらに進んでいて、今では僅かな例外を除いて親友と呼べる存在がいなくなっていた。
それにしては、逆に「女神様」とかいうありがたくもない呼び名がいつの間にか広まっていて、それはテストの順位からだと予想できたけれど、宿題を聞きに来たりしたクラスメイトには特に分け隔てなく接しているのもあると思う。
逆にその立ち位置からすると、私に好意を持っていても抜け駆けと思われる行動には出にくい男子から積極的に声をかけてくることはない。
こんな形で周囲から一定の距離を保っているように思われているから、学年が進級しようと正直なところどの学級になっても構わない。
それでも階段を上っていく間に、名簿に並んだ名前の一部を思い出してみる。
気になったとすれば、誰がどんな意図を持って決めたのか分からないけれど、随分と引き締めた人員構成だと思った。
他の組に比べて派手さはないけれど、各教科でも学年で実力のある上位から中堅どころを何人も入れている。それに各委員会の経験者が多いことも特徴かもしれない。
1学年全部で8クラスある中で、特別進学クラスの1,2組、体育会系の部活所属員が多い3組はそれぞれ目立つところを持つけれど、この5組にこれといった派手さはない。
その代わり、多少の乱れにも相互にカバーできる、自律したダークホース的な構成だと思った。
このクラスの担任の先生は、最初から苦労はしなくてもクラスの運営が出来るだろう。
こんな構成にしたのは、1年間楽をしたいと思う学年主任なのか、それとも引退間近……? 正反対の新任の先生か……。
頭の中で、まだ発表されていない担任の先生を予想してみる。
「おはよう」
「花菜、今年もよろしくね」
「うん……」
去年も同じクラスだった
千景ちゃんとは中学時代からの付き合いで、高校生になった今では、私のパーソナルエリアに素で入って来るのを許せる唯一の存在だと言ってもいい。
千景ちゃんとは試験勉強も学校の図書室でやっていて、そこに加わりたいという声がなかったわけじゃないとこっそり教えてくれたっけ。
千景ちゃんは私と違って何事にも物怖じしないタイプで、周囲から私達が二人でいることに色々な声があることも共有してくれている。
「そんなの、花菜にはあたしがいるから安心していなさいって」
逆に私へのアプローチをトライしたい男子からアドバイスを聞かれることもあるみたいだけど、「そんなことまであたしに聞いてくるようじゃ、花菜を落とすのは絶対に無理ね」と容赦なくバッサリ斬ってくれる。そういう意味では本当にありがたいし、頼りになる。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。ずいぶん大人しくまとめられたクラス編成だなって思ってね」
「確かに! 担任は誰なんだろう。2年だからって放置プレイってのも嫌だよね」
千景ちゃんにここまで考えてきた先生のリストをお互いに言い合ってみても、そのどれにも当てはまらなかった。
「そうなると、これは新任の先生って線が有望かもね」
「うん。この字を書く先生って今までいなかったような気がする……」
そうなんだよ……。私は教室の黒板に書かれた各自の配席の字が気になっていた。
決して読みにくい癖のある字ではないけれど……。ここまで同じように書けるのだろうか……。
もう一度、「松本」と書かれた筆跡を見る。
だって、私はこれと全く同じ字を書く人を知っているんだもの……。
ざわつく私の胸の内にはお構いなしに、始業式で体育館へ移動する時間になってしまった。
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