「21回目」ってお題を「21」という数字を使わず書いてみた。サキュバスに襲われたけど、ぼくは魅了呪文がきかない体質で、なんだか彼女が可哀想になったので……
半濁天゜
第1話
ほどよく散らかった自室でゲームをしていると、窓が開く音がした。ここは二階だし何だろ? なんて思うでもなく顔を向けると……、
紅い瞳の美少女が、背にした窓に、
「さあ、わたしにキスしなさい」
桜色の唇が、甘く滑らかな声を紡ぐ。大きな真紅の瞳が、噛みつくようにぼくを捕らえて放さない。
頭の片隅でなにかが叫んでいるけど、意識が痺れてよくわからない。
ああ、彼女まであと一歩、
パシッ!
眼前でなにかが弾け、意識が晴れた。
「きゃぁっ!?」
短い悲鳴をあげ、
「
「ふふふ、その通りだ!」
なにを言ってるのかよくわからないけど、なんかカッコよさそうなので、思わずノリで答えてしまった。
すると彼女は大マジに、なにもない空間から
「嘘、嘘、冗談だって! ぼくはただの高校生だから、そんな物騒なものださないで」
大慌てで本当のことを言う。
彼女は険しい目で、ぼくのことをみつめてくる。そんな表情もやっぱり可愛い、なんて思っていると、
「そうね。あんたみたいな童貞に、わたしの
「さあ、今度こそわたしにかしづき、つま先にキスしなさい」
さっきより命令ひどくない? なんて思う間に、意識が濁り、頭が欲望で埋め尽くされる……。
ああ、彼女まであと一歩……。
パシッ!
ぼくたちの間でなにかが弾け、思考が戻る。
「もう! なんなのよこれ!」
綺麗な眉根を寄せて、彼女がぼくを
「やっぱり
「ぼくはなにもしてないし、よくわからないけど……。再試とか追試とか? で他の人のところにいく、とか?」
「あんたみたいな童貞に尻尾巻いたら、いい笑いものよ!」
少し涙目になりながら毒づく彼女。感受性の高いぼくまでちょっと悲しくなる……。なんでぼくが童貞だと決めつけるのかな?
「いいわよ。呪文が効かないなら、体で落としてあげるんだから」
なんて、けしからんことを言い、彼女がぼくの背後に回る。
「ナニヲスルンダ、ヤメロー」
……抵抗も
ぎゅうぅぅ。背中を柔らかな弾力が圧迫する! おぉぉう!?
すずらんの花の香りに、思わず鼻息が荒くなる。
「ねぇ、もっとイイコトさせてあげてもいいのよ?」
耳をくすぐる熱い吐息、甘く可愛い声が、脳を溶かして……、
「クソウ、アクマメー」
「ふふ、悪魔は悪魔だけど、わたしは
「あ、ぼくは人間の
「そう、ならせいぜい抵抗してよね」
リリーの細い指に
パシッ!
また、二人の間でなにかが弾けた。
「もう! 呪文は使ってないでしょう!?」
「誰だよ、いいところで邪魔すんなよ!」
「えっ?」
「あっ……」
思わず本音が零れ、気まずい時間が流れる……。
「そっ、そうよ、わたしの魅力に抗える人間なんていないんだからっ!」
リリーが先に立ち直り、再びぼくに魔の手を伸ばす……。
†
「サキュバスの、乙女のプライドがボロボロよ」
涙をにじませリリーが膝を抱えている。もう何回、なぞの力に阻まれたかわからない。
実際、虜にされたら酷い目にあわされるんだろうけど、なんだか少し可哀想。負けん気の強い子が落ちこんでいると、慰めてあげたいような、ちょっと悪戯したくなるような……。
そんな心を抑えられず、リリーに近づき、ほっぺたをつんつんとつついてみる。リリーが恨みがましい目でみてくるけど、文句を言う気力はないらしい。
「なんとなくなんだけど……。いま、ぼくは君の頬を
「ぐすっ、なんでそんなこと教えてくれるのよ?」
「形だけでもキスしたら、とりあえず試験は合格なんだろ。それでぼくの魂を諦めてくれるなら、悪い話でもないし」
っていうか、是非ともお願いしたいくらいだ、色んな意味で。
「ファーストキスなんでしょ? いいの?」
「……君みたいな可愛い子ならむしろウェルカムだよ!」
なんでファーストと決めつけるのかという議論はしないでおく、大人なので。
涙をぬぐい、リリーの燃える瞳が、まっすぐぼくを映しだす。
「ひとつだけ質問よ。”わたしにキスしなさい”とわたしが貴方に言うのは何回目かしら?」
……もう二十回くらいは言ってる気がするけど……。リリーは結構負けず嫌いみたいだし、悪魔らしく十三回? いや一桁以内の九回? いや……
「四回目……?」
死だけに?
「あら、わたしのお願いを三回も断るなんて、貴方はそんな人だったのかしら?」
やれやれ、さっきまで涙目だったくせに。本当に負けず嫌いなんだから……。
「ごめん、ぼくの負けだ。もちろんこれが一回目だよ」
頬を赤らめ、満足そうに微笑むリリー。なんだこれ? 恥ずかしさに、お月さまも真っ赤だよ、まったくもう……。
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KAC20217
お題「21回目」
「21回目」ってお題を「21」という数字を使わず書いてみた。サキュバスに襲われたけど、ぼくは魅了呪文がきかない体質で、なんだか彼女が可哀想になったので…… 半濁天゜ @newx4
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