第49話 本当に、大切な話をしよう

 僕とミナとふっしーでベンチに座って、波留君は立ったままだ。ちょっと重苦しかった空気が、ふっしーが元気になってから少し和らいだ。


 今まで何があったかを、ミナとふっしーが告白した話をしてくれた。波留君は居心地悪そうにしていたけれど、ミナはそれを見て「あたしたちを悲しませた話なんだからきちんと聞いててね」と言っていた。八つ当たりではあると思うけれど、ここに来た時の本当に悲しそうな顔を思い返してしまうと言葉には出せない。


「俺としても優柔不断だったと思うし、申し訳なかった。どっちにも結論出さないなんて保留みたいで自分として嫌な行為だったと思う。二人にも、迷惑をかけた」


「そこまで謝らなくても大丈夫ですよ、私は。これから頑張っていこうって思えたので」


「本当に、美波ちゃんは強いよね。あたしはちょっと傷が深すぎたかな」


 どこか吹っ切れた表情のふっしーは、そういった。


「僕も、想いを伝えるぐらいだったらいいかな」


「あたしたちに聞かれるのがいいのであれば。どうしてもっていうなら席外すけど……」


「ううん、大丈夫」


 覚悟を決めたように、真っすぐ波留君が僕を見ていた。そんなに重要なことじゃないのに。付き合ってもらいたいとか、そういう波留君に決断を乞うようなものじゃないから。


「波留君」


「……なんだ」


「一番最初は、波留君のことあんまりよく知らないで話してたんだけど、いざ一緒に話してみると、本当に楽しかったです。一番最初は恋してるとかそういう自覚がなくて、ミナとかふっしーとかが恋愛の話をしているのを聞いてからだったから、自覚したのはかなり遅かったと思います。でも、恋愛している間は、本当に幸せでした」


 そこまで一息に話して、息を吸い込む。やっぱりちょっと恥ずかしくて怖かったみたいで、馬鹿みたいに心臓が音を立てている。


 波留君も少し慌てた雰囲気を醸していた。


「大好きだよ、波留君」


「……ありがとう」


 少し照れたように、視線を逸らして波留君が返事をする。


 自分の想いをすべて言葉に出すのは怖いけれど、それでもやっぱりすっきりするものだ。はにかむ波留君を見て、心からそう思った。


 本当に、恋愛は幸せで楽しい。


 そんな感じで、少し静かな空気が場を流れていたんだけど。ふっしーが思い出したかのように言葉を発した。


「ねえ、あたしまだ直接伝えてなんだけど、あと『ありがとう』も言ってもらってないからもっかいやっていい?」


「……え?」


 あっけにとられた波留君の様子をよそに、ふっしーは立ち上がる。そのまま波留君の前に言って、真っすぐと見つめて話し始めた。


「あたしも、光瑠ちゃんとか美波ちゃんとかと同じように、波留君のことが大好き。歌ってるときのかっこいいところとか、時々不器用なところとか、本当に大好き」


「……私も、本当に大好きです。波留さんのかわいい子供っぽいところが本当に」


 ふっしーに便乗してミナまで告白し始める。そこまでくると僕も何か言わなきゃという空気になって、あわてて息を吸って話そうとするとむせてしまった。


 ミナが微笑まし気に僕を見て、なんか恥ずかしくなりつつもゆっくりと息を吸う。


「僕も大好き、波留君」


 いろいろと言葉を重ねられすぎてキャパオーバーになったのか波留君は目を白黒させていた。かろうじて「ありがとう」とだけ呟いて、そのままいったん落ち着くように額を手で押さえた。



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 今度は波留君もベンチに座っていて、みんな各々が好きな態勢で話を聞いている。集まった直後よりも格段にみんなの顔が輝いている気がする。


 それが、僕にとってはどうしようもなく嬉しかった。


「俺は容姿がコンプレックスだった。何をしても容姿の話を引き合いに出されて、親のことが出されて、見た目だけが絶対なのかっていつも思ってた」


 波留君は、整理するために一番最初から話すと言っていた。ベンチに座ったまま下を向いている。


「高校入ったら絶対変わってやるって思って、中学校の時には必死になってメイクを教わってた。一年前はまだ子供だったから親のことを怨むときもあったし、自分の顔をわざと傷つける時もあった。でも結局、あんまり上手くいかないことが多かった」


 一息で話すようなことはせずに、ぽつりぽつりと言葉を漏らしていく。波留君にとって、大事な話なんだろう。


 静かに話を聞く。視線を上げると、美波ちゃんが心配げに波留君のことを見ていた。


「いざ高校入ってみたら、誰からも視線を向けられないのってやっぱり静かで楽しかった。今までの煩いのがすべてなくなったから。………でも、みんなと話すようになってからはもっと楽しかった。やっぱり誰かと関わるのは幸せだって」


 下を向いたままの波留君の顔を若干覗き込む。穏やかな笑みだった。


「顔で見られてるかどうかじゃなくて、見られてるのが顔だけかそうじゃないかっていうのが自分の中で大切だったんだなって、やっと気が付いた気がする。だから、この人たちともっと一緒に居たいなって。でも、やっぱり俺は不器用で気遣いが出来なくて、みんなには迷惑かけてばっかだけど」


「別に、大丈夫ですよ」


「あたしは大丈夫じゃない」


「………ありがとう、美波。ごめん涼香」


「僕はそういうところも含めて好きだよ」


「あ、ずるい」


「ありがとう、光瑠」


 得意げな顔をして見せると、ふっしーとミナは楽しそうに笑って私を見た。ふっしーも案外に、怒っていない。きっと怒っているというポーズを示しているだけだ。傷ついたことを知ってもらいたいのだろう。自分にとっては、波留君はそれほど大事なのだということを。


 波留君は少し笑顔になって、また話をつづけた。


「で、話を戻すんだけど、美波から告白されたときに、やっぱりてんぱったんだよな。涼香からの時も。まだちゃんと仲がいい人への返事に慣れてなくて。………本当にごめん」


 別に、大丈夫だと思う。


 傷ついてもいない僕が言えることじゃないけれど、波留君が思っているより、今の二人は傷ついていない。


「俺はきっと、恋愛感情なんて持ってなんだと思う。今まで恋愛に慣れてなさ過ぎて、恋愛っていうものが良く分かってないから」


「……そんな感じはしますね」


「ああ。だから、これからもみんなと仲良くしたいなって思ってるんだけど………」


 予想外に自信なさげな波留君に驚いて思わず顔を上げる。波留君は確かに反省しているようだった。きっと、ふっしーが起こって泣いていたのが相当に堪えたのだろう。


「これからも、友達でいてほしいです。俺と」


 下を向いていた顔を上げて、真っすぐ私たちを見て波留君は言った。今日何度目かの真直ぐな、真剣な顔。でもそれが今は少し照れくさそうで、恥ずかしそうだ。


「逃げですか」


 楽しそうに、美波ちゃんが呟く。さっき聞かされたことだった。波留君へと告白するときに、その返事に対していった言葉だと。


「ああ、そうかもしれない」


 楽しそうに、波留君は答えた。


 少し長い髪を、その手でかきあげる。隠れていた素顔が見える。こんなに晴れた日だと輝いているかのようにも見える、その顔を。


 楽しそうな笑顔。本当に、人を魅了してやまない整った顔。


 ひっそり生きたいとか、そんなことを言っていたのを聞いたことがある。でもその願いも、もう叶わないと思う。


 僕たちは、静かになんてしない。隠れてだなんて、生きさせない。


 僕たちの愛を、受け止めてもらうから。








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 これにて完結です!!


 今まで本当にありがとうございました。拙い文章な部分も多く、ここまで読み進めていただいたことには感謝しかありませんm(__)m


 このあとに少しアフターストーリーを投稿していくつもりです。本当にありがとうございました。

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