第46話 元淡白女子の苦悩

 暗く沈んだ気持ちをごまかすように家の外へと出た。


 例のメッセージを送ってから、既読の文字が表示されてから、もう三十五時間が経った。


 日曜日の朝。無駄に晴れ晴れとした空に辟易としながらも、気を抜いたら溢れてきそうな涙をこらえる。


 「本当に、……あぁ」


 既読スルーだなんて。


 最低だ。


 返事を期待するあたしのほうが卑しいのだろうか。既読をつけても返事が返ってこないのは、ちゃんと考えてくれているからだろうか。


 空を見上げる。


 時折自分でも何を考えているのか分からなくなる。ぶつ切りにされた思考が頭の中をゆったりと流れていった。


 あたしは、波留君のことを、嫌いになれるのだろうか。


 ずっと好きで居続ければいいのだろうか。


 せめて一言、ごめんとでも送ってくれればいいのに。そしたら、諦めがつくのに。絶望に浸ることが出来るのに。


 怒りだけを、感じられればいいのに。好きな人だったと、言い切れるぐらい吹っ切れてしまえばいいのに。


 あぁ。本当に、こんな惨めな自分が悔しくて仕方がない。


 あたしは波留君を前にしてどんな表情かおをすればいいのだろう。


 いつも通り、今までと何も変わらないように接する?


 気を引くためにわざとらしく媚を売る?


 それこそ、わざとらしくしおらしい態度を取ればいい?


 考えても、答えは出ない。留まることを知らないとめどない、どうでもいい考えが巡る。巡り巡って、いつも同じところに戻ってくる。


 同情でも買うために泣けばいいのか。少しでも視線を向けてもらうためにわめけばいいのか。それでもいいからと健気に笑えばいいのか。


 あたしには、できない。


 素直に自分の想いを伝えることしかできない。今感じている憤りも含めてすべて伝えることしかできない。きっと、それだけしか。


 そしてその選択に、その先の未来はない。


 クレヨンで塗りつぶされたみたいな歪な黒色に似た後悔が、胸を急かす。息遣いが速くなる。速く波留君に会いたい。


 あたしには耐えられない。


 ───そんなふうに、自分では焦がれているつもりでも、いざその結果が自分の目に映るところに現れるとなると、人間だれしもが戸惑うものだった。そして、後悔し、見たくなかったと泣き叫ぶ。


 ピロン、と無駄に明るい音が照り付ける太陽のもとで響いた。蝉の声すらもしない、ただただ静かな空間の中で、あたしの微かな嗚咽だけが浮いている。


『ごめん』


 その一言だけだった。


 ちがう。


 あたしは、そう思っていたわけじゃない。


 本当に望んだことじゃない。


 言葉の綾で。


 本当に、本当に。


 とめどなく涙があふれ出た。

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