第42話 元淡白少女は焦る

 昨日の夜、美波ちゃんから『波留さんを水族館に誘いました』という文章が届いた。


 美波ちゃんと光瑠ちゃんには嫉妬もなにもしないと思っていたのに、心の中が何かに突き刺されているかのような感触に襲われる。自室で、脱力感に苛まれながらベッドへと崩れ落ちた。


 正直に言ってしまえば、想像してしまったのだった。美波ちゃんが楽しそうに波留君と出かけているところを。美波ちゃんが珍しく着飾って、それを見て顔を輝かせている波留君を。


 胸の奥が痛い。失恋したわけでもないのに、苦しくて仕方がない。


 あたしは、波留君が大好きだ。それは、まぎれもない事実だった。何にも代えがたいほどに重要な。


 でも、光瑠ちゃんだって美波ちゃんだって波留君のことを好きなのだ。


 焦燥感に押されるように、さっき投げ出したスマートフォンを手に取った。


 告白云々の話を、気軽にしてしまったから。たった二文字を送るだけでいいのだから。いや、四文字でもいい。もしかしたら五文字かもしれない。


 好き、好きです、大好きです。そんな文章を、打ち込んでは消して。


 座ったままだったベッドの上で、柔らかい布団に倒れ込んだ。



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 波留君へ。


 少し長い文章になってしまいましたが、あたしが伝えたいことです。なるべく読んでくれると嬉しいです。でも、忙しかったらいいかな。


 まだ高校生になってから半年もたっていませんね。あたしは、実は初めのころは高校生になるのが本当に怖かったです。私にとって、高校生っていうのは大人とほとんど同じだったから。でも、実際に入学してみれば、なんてことなかったです。波留君とか、みんながいたから。


 学校に行くのが楽しみで、朝起きる時間が早くなりました。友達もいっぱいできて、好きなひともできました。波留君がいたからこそ、毎日が本当に楽しかったです。


 あたしは勉強が出来なくて、いつも美波ちゃんにおしえてもらっていました。でも、たまに波留君が教えてくれて。そういうときは本当に嬉しかったです。べつに美波ちゃんに教えられるのが嫌だったっていうわけじゃないけど、でもやっぱり嬉しかったです。


 ちょっと上手く文章に出来ている気がしないですけど、私が言いたいのは、波留君いつもありがとうってことです。あたしが困ってるときとか、あたしがすこし辛いときにいつも見守ってくれて、声をかけてくれていつも嬉しかったです。


 本当に、波留君は優しいです。あたしに限らず、みんなに分け隔てなく、誰にでも優しいです。困っている人を見たら少し表情が変わりますよね。そういうのを見ると、波留君と友達でよかったなって思います。


 その優しさを、ちょっと独占したいとか思ってしまいました。大好きです。


 長文失礼しました。



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 震える手と、送信ボタン。


 少しためらった後、吐き出した息とともに文章が送られた。

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