第10話 幸薄少年と仲良くなる

「えっと、じゃあ、俺は帰るね?」


 こちらの話がひと段落着いたのを見計らってか、先ほどまで一歩引いたところで見守っていた中富くんが声をかけてきた。


 中富くんには本当にお世話になった。俺が怪我をしているときもそうだったし、北島さんが大里くんに襲われているときもそうだ。


「今日も、前に俺が大里くんに殴られたときも、ありがとう。助かった」


「いや、俺は大里に逆らえないだけだからさ……。そんな感謝されるような人じゃないし、北島さんを慰めてあげて。傍から見てるオレも怖いぐらいだったからかなり怖かったと思う」


「それでも、俺らを呼びに来てくれただけ勇気があるだろ。俺はそれで助かったから、本当にありがとう」


「眞家は優しいな」


 中富君だって優しいのだが。行っても認めなさそうだったので、心の中でほめちぎるに留めておく。自分よりも力の強い人間に逆らうというのは非常に勇気を必要とする行為だから、中富くんは本当にすごいと思う。


 俺だって空手をしていたという自信があるからあそこまで逆らえていただけで、力関係が逆だと確信していたのであれば、もっと違う行動に出ていたと思う。


「……なんで大里さんと仲良くしてたんですか?中富さんの性格であればあまり彼と会わないと思うのですが」


「情けない話なんだけど、脅されたら怖くて逆らえなくてさ。便利なパシリとして利用されるようになっちゃったみたいで」


「大変だね。あたしだったら確実に耐えられなくなってると思う。中富君は強い人間だよ」


「僕も、今日は中富と眞家のお陰で助かったよ。二人とも本当にありがとう」


「……なんかみんな優しくていたたまれなくなるよ」


 中富くんが照れたように頭を掻いた。素はいい人なのだろう。普段の行動からしても、大里くんに絡んでいる人の中ではずば抜けて気が小さいように見えた。少し失礼かもしれないが。


「………んじゃ、これからもよろしく。俺は今日はスマホ持ってきてないから連絡先交換とかはできないんだよな。みんなは?」


「………私も持ってないですね。光瑠さんは持ってましたよね?そしたら後で明人さんの連絡先をみんなに共有してくださると嬉しいです」


 俺が言いたいことを察してくれたようで、皆川さんが続いた。「え、え、え、え?」と中富くんの混乱した声がだけが虚しく響いている。


 もし大里くんがこの件が終わった後もまだ俺たちの近くにいるとして、そうしたら中富くんがこれからも彼と一緒に居なくてはならないのはこくすぎる。俺たちと仲良くなっていれば、少しはましになるのではないだろうか。


「ありゃ、かの皆川様と仲良くなっちゃえば中富君に誰も手を出せなくなるねぇ。僕も仲良くしてねー」


 北島さんのわざとらしい発言で、さすがに中富君も察したらしい。しきりに申し訳なさそうな顔をするので、思わず笑ってしまった。同じく笑みを浮かべていた伏見さんも続く。


「そんな顔しないで。あの大里に対抗して人を呼びに行けただけですごい勇気なんだから。今までの行動と境遇の対価としてこのぐらいは甘受しても罰は当たらないんじゃない?」


「……なんか、その。……ありがとう」


 無駄に縮こまりながら中富君がお礼を呟く。ほとんど消え入りそうなそれを聞いて、伏見さんが少し顔を輝かせた。


「これからも仲良くしてくれるってことよね?じゃあ、明日から昼休みはあたしたちと一緒に行動ってことで」


 大里くんに個人的な恨みがあったみたいだし、同じ被害者として仲間と感じる部分があるのだろう。そんな様子を受けて、中富くんがわずかに笑みを見せて語り始めた。


「俺いままで友達っていう友達が居なくて。……気が弱いっていうのもあるんだけど、そもそも馬鹿だからさ、あんまり話しかけてくれる人もいなかったから。だからいますげえ嬉しいんだよね。……これからもよろしく、でいいのかな?」


「あぁ、よろしく」


 「よろしく」と返しただけで嬉しそうに表情を輝かせる。ポメラニアンみたいに素直だ。気兼ねなく話せる男子が増えるのは嬉しい。自分自身も少し気分が弾んでいるのを自覚せざるを得なかった。



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「評価ください(ノシ ;ω;)ノシ バンバン」

って読者に媚びる夢を見た。

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