4 桃太郎、初対面相手に人見知りする

 一悶着あった末に犬・サル・キジをお供に加えた桃太郎は、船に乗っていよいよ鬼ヶ島へ向かいます。船着き場を発ってしばらくすると、真ん中に針山のような形の岩がそびえたつ鬼ヶ島が見えてきました。


「それじゃあ、気を付けて行ってきな。」


 船乗りの言葉を受けて、桃太郎たちは鬼ヶ島へ足を踏み入れていきました。




 桃太郎たちが岩だらけの道をしばらく進んでいくと、鉄でできた大きな扉のある門の前にたどり着きました。扉には鬼の顔が彫られているので、ここが鬼たちの住みかに違いありません。

 桃太郎は扉を勢いよく叩きます。すると、しばらくした後に扉が開き、頭に立派な角を生やした鬼が中から現れました。


「これはこれは、わざわざこんなところまで人間がやってくるとは。それで、用件は何かね?」


 鬼は桃太郎の予想に反して、丁寧な応対をしてきました。一方、桃太郎は相手が初対面であることと、予測しない行動をとってきたことから、動揺してその場に固まってしまいました。


「悪いけどこっちもやる事があって忙しいから、準備が出来たらもう一度来てくれ。」


 いつまでたっても棒立ちのままの桃太郎に対して鬼はそう言い残し、門の奥へと消え去っていきました。




「桃太郎さん、桃太郎さん。」


 鬼が門の前からいなくなってしばらくたってもその場に立ったままの桃太郎に、犬が話しかけます。


「さっきの鬼さんなんだけど、着ている服から別の人のにおいがしたんだ。もしその人がひどい目に遭っていたらどうしよう。ねえ桃太郎さん、助けに行こうよ。」

「そ、そうだね。」


 犬の言葉を受けて、桃太郎一行は門の奥へと入っていきました。




「あなたがうちの主人が言っていた人間のお客さんね? こんなところまでよくいらっしゃったわねえ。」


 門をくぐった先にある玄関では、割烹着を身に着けた女の鬼が桃太郎たちを出迎えてくれました。話からすると、どうやら先ほどの鬼の奥さんのようです。


「うちの主人も近頃はなんかピリピリしちゃって、どこか居心地が悪そうに見えるのよ。作物が取れなくて、前に里から連れ去ってきた人間がみんな飢え死にしてしまったのが原因なのかねえ。」


 鬼の奥さんが桃太郎たちを案内しながら、独り言をつぶやきます。桃太郎としては、自分が助けるはずだった人間がすでに死んでしまっていたことにショックを覚えました。桃太郎はこの話をできれば聞きたくなかったからです。


「さあ、着いたよ。主人もこの部屋にいるからね。」


 鬼の奥さんに連れられて、桃太郎たちは廊下の突き当たりにあるふすまが閉まった部屋までたどり着きました。桃太郎は、おずおずと部屋のふすまに手を掛け、ゆっくりと戸を開けるのでした。

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