第8話
橘 信司は疲れていた。
慣れない猫カフェの営業や、接客はなかなか骨の折れる仕事だった。
しかし、猫達と一緒に働けるなんて夢のようだ。
だから少しくらいの無理は大丈夫だと思っていた。
今日も店を開いた。
ラインとレイン、アリサがやって来た。
「いらっしゃいませ! 毎度ありがとうございます!」
「よお、信司! また来たぜ!」
ラインとレインは機嫌良く手を振った。
「信司さん、覚えて下さっていたんですね」
アリサは頬を赤らめた。
「はい、印象深いお客様だったので」
「それに、アリサさんは猫様達に愛されていたので・・・・・・チッ」
信司は少し美しい顔をゆがめた。
「ちょっと、なんで舌打ちするの!?」
アリサは見逃さなかった。
「いえ、つまらない嫉妬心です」
信司はそう言うと、ラインとレイン、アリサの首に入場時間を書いた紙を下げた。
「よお、猫たちも元気だな!」
「はい、それはもう」
信司は話しながら、預かった荷物や武器防具を受付の裏にしまった。
「じゃ、いつもの頼む」
「はい、パンケーキと紅茶のセットですね」
ラインとレインは店の中央テーブルに着いた。
「私も同じ物をお願いします」
アリサは台所に近い席のついた。
「はい、分かりました」
信司はテキパキとパンケーキを作り始め、お湯を沸かした。
「客は入ってるのか?」
ラインが聞いた。
「おかげさまで」
そう言うと信司は焼き上がったパンケーキに、ニャンニャン達の似顔絵を描き始めた。
「それではどうぞ」
ラインとレインの机にパンケーキと紅茶が二つずつ置かれた。
「おお! あいかわらず可愛いな」
今度はアリサのテーブルにパンケーキと紅茶を置く。
「あ、ありがとうございます」
アリサは信司の顔に見とれていた。
「はい、猫様に愛されている人に恐れ多い言葉、ありがとうございます」
そう言いながらも、信司からは嫉妬のオーラが漂っていた。
またもにゃー達はアリサに近づくと、背中に上ったり、足の上で寝たり、自由に振る舞った。「これさえなきゃ・・・・・・」
アリサは渋い顔をしたが、信司の視線を感じてハッとした。
「姉ちゃん、猫に好かれてるなあ」
レインがアリサに声をかけた。
「はい、なんか知りませんがそのようです」
「俺たちなんか、まったく寄ってきてくれないぜ」
ラインとレインは少し寂しそうだった。
「それなら、ご一緒しますか?」
アリサは猫たちの注意が、自分からラインとレインに移ることを期待した。
「良いのかい?」
ラインとレインは席を詰めて、アリサを受け入れた。
ラインとレインは猫のおもちゃで、猫たちの気を引こうと必死だった。
あいかわらず猫たちはアリサの膝や肩でくつろいでいる。
信司からドズ黒いオーラが漂っている。
「アリサ様、猫様達に本当に愛されていて・・・・・・」
「信司さん、顔、怖いです」
アリサは少しおびえた。
三人が帰ると、信司は店の床で昼寝をした。
ずいぶん疲れていた。
気が張っていたらしい。
すると、猫たちも寝ている信司の腹や胸、股間の上で寝始めた。
信司は猫まみれだった。
信司は途中で目が覚めたが、あまりに幸せな構図に、寝たふりを続けた。
お昼になった。
午後からは、またお客が来た。
女性が4人、男性が3人だった。
ライン達と合わせて10人、一日の上限と決めた人数だ。
「猫カフェ続けられそうですね。さすが猫様の魅力は、異世界でも色あせませんね」
信司はそう言うと、店の看板をCloseに裏返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます