婚約指輪 紙
仲仁へび(旧:離久)
第1話
成人して数年。妻を迎えた俺は、もうそろそろパパになる。
そんな俺は、休日にソファーでくつろいでいた時、昔の事を思い出した。
『みっちゃん! 大好きだよ! 大きくなったら、俺みっちゃんをお嫁さんにするんだ』
『ほんと。わたしも、まーくんの事だいすき!』
『だったら、ね。みっちゃんにこれあげる』
『ゆびわ?』
『うん、こんやくゆびわって言うんだよ。大切にしてね』
『ありがとう。大切にしまっておくね!』
子供の頃に、気になる女の子とそんな会話をして、手作りの婚約指輪をプレゼントした。
指輪の正体はただの紙。
折り目をつけて工作して、テープでつなぎあわせて、ペンで色をぬっただけの、簡素なものだ。
ちょっと水でぬらしたり、力を加えたら、すぐに壊れてしまうようなもの。
でも、そんなものが子供だった俺には重要なものだったんだろう。
だからこそ、俺は大きくなった今でもその出来事を覚えていたのかもしれない。
けれど、相手の彼女はそんな事忘れてしまっているだろうな。
あの時彼女が、本当の所はどう思っていたかは知らない。聞いてない。
あの後、両親の仕事の都合で遠くへ引っ越してしまったからだ。
今頃どうしているかな。
ぼんやりと考え事をしていると、俺の妻である女性が話しかけてきた。
「あら、あなたぼんやりしてどうしたの? 何か考え事?」
初恋の想い出にうつつをぬかしているなどと知れたら、怒られてしまうだろうな。
俺は「なんでもない」と誤魔化した。
今の妻を捕まえるためには、かなり苦労した。
プロポーズする時は、しょぼい給料で購入したしょぼい婚約指輪を、洒落た言葉をそえて恰好良く贈れないかと必死に考えたもんだ。
するとこちらの内心に気が付かない妻は、「見て見て」とはしゃいだ声で話しかけてきた。
「懐かしい物を見つけてしまったの。ほら」
と見せてきたのは、なんとあのおもちゃの婚約指輪だった。
「どうしてこれを?」
と俺は問いかける。
「つれないわね。もうすぐ結婚記念日だから、出会いの思い出を確認するのもありかなって」
ひょっとしたら俺は、とんでもない勘違いをしたまま結婚していたのかもしれない。
「緊張したあなたがプロポーズしてくれた時に、紙でできたような粗末な指輪ですがどうぞって言ったわよね。あなたも昔のことを覚えていてくれて嬉しいわ」
婚約指輪 紙 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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