ボイストレーニング

瀬尾 三葉

第1話

 私は最近、ボイストレーニングをしている。来週の授業参観に向けて、大きな声で作文を読めるようにだ。私は声が小さくて、いつも言いたいことがみんなに伝わらない。私って存在してないのかな?と思っちゃうくらい、声が届かないこともある。お母さんには、「もう五年生なんだから、言いたいことはちゃんと言えるようにならなきゃね」ってよく言われる。

 授業参観で読む作文のお題は、「みんなに言いたいこと」。このお題を大きな声で発表できたら、少しは私も変われるかなって思って、ボイストレーニングを始めてみた。唇を震わせたり、息を長く吐いたり、お腹を意識して声を出したり。うん、いい感じ。

 そして迎えた授業参観当日。ちらっと後ろを見ると、お母さんが手を振ってくれた。いよいよ私の番だ。立ち上がって息を吸う。

「私は、このクラスでいじめられています」

 私の大きな声が、教室に響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボイストレーニング 瀬尾 三葉 @seosanpa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ