悪役令嬢は腹黒ヒロインと手を組むことにした

真理亜

第1話 悪党な王子

「やかましい! 俺に指図するなと何度言ったら分かるんだ!」


 貴族子女が通う由緒正しい王立魔法学園に、また今日もこの国の第2王子であるルドルフの怒声が響き渡る。相手は自分の婚約者である公爵令嬢のライラだ。


「殿下! どうかお聞き下さい! このままでは...」


「黙れ! 貴様の言う事など聞きたくない! 俺に構うな! 不愉快だ!」


 ライラが毎日こうして苦言を呈しているのに、ルドルフは聞こうともしない。ライラはため息を吐きながら、


「分かりました」


 と、引き下がった。


 顔は俯いていて悲し気に見える...のだが、実際は笑いを堪えていたのだった。


 (これでまた証拠が一つ増えたわね)


 ライラは録音していた魔道具をそっとOFFにした。



◇◇◇



 ライラとルドルフの婚約は政略目的である。母親が正妃ではなく妾腹のため、後ろ楯の弱い第2王子という立場を強くするために、公爵家の後ろ楯を求めての婚約だった。


 貴族であれば政略のために結婚するのは普通のことなので、ライラとしても当初は受け入れるつもりではいた。だがとにかくこのルドルフは最低な男だった。ライラは初対面から僅か十分で大嫌いになった。


 大して男前でもない癖にやたら自分の自慢ばかりする。バカな癖にプライドだけは高い。そして何より女癖が悪い。事あるごとにライラに婚前交渉を要求し、断られると激昂する。一度、力ずくで事に及ぼうとしたこともある。その時は魔法で吹き飛ばして事なきを得た。


 そんな相手と結婚するなんて、いくら政略目的だとしてもご免被りたい。ライラは婚約を破棄するためにルドルフの悪党振りを記録しておくことにした。


 (さて本当は聞くのもイヤだけど、これもお仕事と割り切りますかね)

 

 ここは学園の自習室。現在、ライラは盗聴用の魔道具を使ってルドルフを観察している。ちなみに今、ルドルフが居るのは王族専用の学園内にある個室の一つだ。


「グスタフ、例の件はどうなった?」


「はい、滞りなく進んでおります。証人も何人か買収して確保済みです」


 グスタフというのはルドルフの側近の一人だ。というより唯一の側近だ。他にも二人居たが、ルドルフに嫌気が差して離れていった。伯爵家の三男であるこの男は、ルドルフに負けず劣らずの悪党でもある。


「イリナの方はどうだ?」


「嬉々として噂を広めて回っています。ライラ嬢にずっと虐められていたと。それはもう涙ながらに。彼女は役者の才能がありますな」


 イリナというのはここ最近、ルドルフが懇意にしている男爵令嬢だ。学園内でイチャイチャしているところを良く目撃されている。


「では、計画通りに今度の卒業記念パーティーで、あの小生意気なライラに公衆の面前で婚約破棄を叩き付けてやる! そしてそのまま国外追放だ!」


 (これはこれは...まさか向こうから婚約破棄してくるなんてね。それも私を冤罪で陥れようと。悪党の考えそうなことね)


「ルドルフ様、ライラ嬢を国外追放にする前に、私めに下賜されることをお忘れなく」


「分かっておるわ。全く、お前も物好きだな。あんな愛想の無い女のどこがいいんだか」


「気高い女を屈伏させるのが楽しいのですよ。グヘヘヘ♪」  


 (ヤバい! 吐き気がしてきたわ...これをずっと聞いてるのって拷問に近いわね...)


 ライラは思わず胸を抑えた。


 

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