第3話

(このまま出社したら……)


 万が一、包丁を持って出社した場合、リカを刺してしまう?

心の奥底で、私はリカを刺すとは思っていなかった。

しかし、カッとなれば分からない。

子供を亡くしてしまった母親の姿がフラッシュバックする。


「……あっ」


 腕時計が8:05分を差し、私は慌てて電車に乗り込んだ。








 会社に到着して、早速リカからの罵声を浴びることとなった。


「あなた、これ、ちゃんとやった?」

 

 ドサッ、と机に置かれた昨日の書類の山。


「えっ、やったよ?」


「データ、無いけど」


「うそ!?」


 昨日、4時間もかけて入力したのに!

チラ、とリカを見やる。

まさか、嫌がらせで消去したんじゃ……

リカが冷たく言い放つ。


「保存、かけましたかぁ~?」


「あっ」


 そ、それだ……

帰りたい余り、詰めを誤って保存かけ忘れたんだ。

私は首根っこを掴まれ、リカに非常階段に連れていかれた。







「何で私を疑ったんだよ、アアッ?」


 バシン、と振り上げた腕が私の肩に当たる。


「オメェのミスだろがっ、クソが!」


 バシン、バシン、と何度も叩かれ、仕舞いには全力のビンタが私の頬に直撃し、ビリビリとした痛みが顔に広がる。


「ワアアアアッ!」


 気が付くと、私は叫んで包丁を手にしていた。

身の危険を感じた私はバックを持ち出し、とうとう、キレてそれを手にしていた。

が、次の瞬間、手首をあらぬ方向に捻られ、包丁を落とす。


「あいたっ」


 そのまま、ボディブローを食らい、膝をつくと髪を掴んだまま私にリカが囁いた。


「こんな得物、怖くねんだよ。 修羅場潜ってんだよこっちは。 この木下リカを侮るなよ?」


「ひぐっ、ひぐっ……」


「おーっと、泣くなよ。 怒りは胸にしまって、私の為に使え。 アンタは心がバラバラになるまで、私の奴隷ちゃんなんだからよ」


 私はこれでも社内で良く褒められる。

でも、この訳分からない猫被りヤンキー女の為に、ここから去らなければならなくなるかも知れない。  



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