第33話 架け橋 その五

 *


 龍郎の放つ光線がやんだとき、サンダリンは息絶えていた。

 しかし、女王には充分に攻撃が効いていない。薄い魔法の膜が女王を守っている。おそらく、攻撃のダメージは半減された。上半身が真っ黒に焦げて、うめき声をあげているが、致命傷ではないようだ。


(まだだ。まだ息の根を止めてない!)


 いったい、どんな気持ちで、サンダリンが最後に子どもたちの塔の魔法媒体を壊したのかはわからない。それでも、なんとなく、彼の思いは伝わった。悲しいほどの孤独。そして、得られないものへの憧憬。


 サンダリンの気持ちをムダにしないためにも、今ここで女王を抹殺しなければならない。


 龍郎は再度、武器をかまえた。

 パイプのさきに意思をこめる。


 が、それを察したのだろう。女王はあわてて、手さぐりで這っていく。目が見えていないようだ。この場から逃げだそうとしている。


 龍郎はあわてた。

 女王に回復の余地をあたえてはならない。急いで追うと、女王は巨大な手でふりはらってくる。とっさによけたので直撃はさけたが、それでも指のさきにひっかかり、二、三メートルなげとばされた。


「龍郎さん!」


 青蘭が駆けよってくる。


「しっかりして。龍郎さん」

「大丈夫。今夜はこんなところで失神しない。絶対に、やつをしとめる」


 青蘭に助けおこされ、ならんでパイプを女王に向けた。二本の光線が螺旋状にからみあいながら女王を射抜く。その攻撃も、膜の表面を流れて威力が散った。


「ダメだ。やっぱり、幽閉の塔の魔法媒体も破壊しないと、百パーセントの効きめがない」


 女王は攻撃を受け、怒り狂っている。見えないなりに、めくらめっぽう暴れだす。


 龍郎たちは女王の腕の下をくぐりぬけ、光線を乱射した。何度かは当たるが、やはり、とどめを刺すことができない。


 パイプから放たれる光線が、だんだん細くなってくる。この武器は精神力を波動にして撃っているらしい。気力が疲弊してきているのだとわかった。


(たしかに攻撃は効いてる。でも、このままだと気力がつきるまで撃っても、女王を倒すことはできない。逃げきられてしまえば、女王の塔の奥深くにこもって傷が治るまで出てこないだろう。幽閉の塔の魔法媒体を破壊しに行くしかない)


 龍郎は考えこんでいたので、目の前に迫る女王の巨大な腕に気づいていなかった。


「龍郎さん! 危ない!」


 青蘭がとびだしてくる。

 龍郎の脳裏に嫌な幻影がかけめぐった。

 女王の腕にはねとばされ、壁に打ちつけられて、全身の骨がバラバラになる青蘭……。


(ダメだ! それだけはさせないッ!)


 龍郎はすべての気力を筒先にこめた。

 青蘭を守りたい想い。

 青蘭を傷つける何者も許さない決意。

 青蘭へのあふれる愛も。

 すべて。


 苦痛の玉の鼓動こどうが聞こえた。


 オーロラのような閃光が爆発した。

 激しい光の奔流が女王を襲う。

 光は女王の頭部を見事に撃ちぬいた。頭部が完全に消しとび、余熱で肩から下もジワジワと溶解していく。


「青蘭! 無事かッ?」

「平気」


 よかった。

 今度こそ守れた。

 女王の手が青蘭に届く前に、やっつけることができた。


 それにしても、なんで攻撃が効いたんだろうと思い、見あげると、幽閉の塔の上部が崩壊し始めている。瓦礫がパラパラと降っていた。


 その塔の上に人影が立っている。

 神父がこっちにむかって、手をふっていた。西洋人でなければ似合わないようなカッコつけたふりかただ。そういうのがサマになっている。


 瀬戸際のタイミングで、まにあった。四つの塔のすべてで魔法媒体が消滅した。だから、龍郎の渾身の一撃がクリアに女王にヒットしたのだ。


 女王の体はボロボロに溶けてくずれさった。形のないろうのようになって、サンダリンの死体とかさなりあう。不思議とサンダリンが笑ったような気がした。


 その瞬間、プツリと世界が消えた。

 すべてが無に帰す。

 一つの世界が終わりを告げた。




 了

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