騎馬戦は、わたしの青春だった。

@shockpan

女子高生と騎馬戦

私は騎馬戦が好きだ。



理由はただひとつ。今まで見てきた先輩たちがそれはもう超絶かっこよかったからだ。



中高一貫の女子校。最終学年、高校3年生の華の陣、騎馬戦。……ってわたしは勝手に思っているけど。



「ジョシコーってお淑やかそう」って世間様によく言われる。

確かに。オープンスクールとか文化祭では表向きだけ取り繕ってるよねえ。


「お嬢様多くて上品なイメージがある。だけど裏がやばそう」

受験前に友人たちに耳にタコができるくらい言われた言葉。


んんん、ちょっと違うかなあ。


わたしの先輩たちは頭の上に付いた紙風船をオラオラオラァ!と叩き潰し合う、そう、ゴリラだった。裏がやばい、とかそんなもんじゃない。女子の波に揉まれた6年間で培われた強さと美しさとゴリラ。砂埃にも霞まない凛々しさがこんなにもかっこいいなんて。


なんっだ、この熱気。4月なのに。ついこの間桜が散って、まだまだ、全然春なのに。なんでこんなあっついのよ。


湧き上がる応援団による声援を聞きながら、通算5回心の中でツッコんでいた自分がいた。


想像なんて出来ないけれど、自分もいつかは高校3年生になるんだとぼんやり思っていた。っていうか、実際なった。

小6のとき、いちばん背が低かったわたしは、学年50人しかいないちっちゃなコミュニティーに抗うこともできずに、最前線で戦う戦闘要員に駆り出された。騎手である。何も出来ずに帽子を取られてしまい、騎馬の3人によってたかってめちゃめちゃに怒られたのを覚えている。


しかし今となっては身長もずいぶん伸びた。もはや後ろから数えた方が早い。成長期サイコー。じゃあわたしは走って守って逃げ回る、憧れの騎馬になれるのね。超楽しみじゃんね。


騎手に果てしないトラウマを持っていたわたしは、先輩の熱気と相まって異常なほどに高校3年生の騎馬戦を楽しみにしていた。


「なにニヤニヤしてんの。不審者極まりないよ」

体育祭の名物、先輩の騎馬戦、春の昼下がり。友人の言葉に下がらない口角を推しバンドのタオルで隠す。そして日焼け止めを塗り直すふりをする。

そんなわたしは、自分もいつかは騎馬戦に挑むものだと信じて疑わなかった。





女子校生活6年目、春。先程も書き記したように、体育祭は毎年4月に行われる。



新型なんとかのせいでそれの中止が発表されたのは3月である。応援団の衣装やチーム編成とかが決まる前だった。


学校の判断は早かった。それが悪いことだとは思っていない。むしろ正しい。このまま実行するなんて到底無理な話だっただろうし、早めに中止を発表しないと生徒だけではなく学校内外からも叩かれていたように思う。


ただ、ただ、ちょっとだけ、寂しかっただけ。6年間心の中で育ててきた小さな花の栽培スペースが空虚になっただけだ。うん。


学校もあれよあれよと休校になり、オンライン授業の時間割りも配布された。


日程を写そうと思って、手帳を開いた。

あれえ、と溜息のような、でもどこかすっとぼけてるような。気の抜けた声が出た。


初めてのオンライン授業の日は、本来なら体育祭の日だったのだ。



騎馬戦は出来なかった。



部活の引退試合もなくなった。



一般公開の文化祭も消えてしまった。



遠足の場所も変更になった。

合格祈願の宮島じゃなくて、ちっちゃなテーマパークに変わった。それもそれで楽しかったけど。でもわたしはやっぱり、みんなでわちゃわちゃしておみくじ引きたかったなあ、なんて。口に出すことでちょっとは軽くなる。

あの先輩みたいにさ、受験前に大凶引きつつも第一志望合格、とかそんな未来描きたかったな。なーんて。



大好きな友達と人生で初めて参戦する予定だった、大好きなロックバンドのライブも中止になった。

だけど配信ライブは本当にかっこよかったから。だから万事おっけー。おっけーなんだよ。

そう思うことにした。





休校期間中、生きやすいこともあった。




オンライン授業はミュート機能と画面オフのおかげで、飲むヨーグルトと共に参加できた。

オンライン授業ってやっぱり質問しづらい。だけど友達とLINEで分からないところを解説&相談しあいながらなんとか乗り越えた。


SNSやらで好きな友達としか話さなくていい、ってことは、スクールカーストや、学校での立ち位置を気にかけて喋るっていう、ちっちゃい社会特有の気だるげさがなくなったってことでもあって。


眠い目を擦って学校に行くことも考えなくていいから、コロナでごたごたの中春から受験生になったわたしは、めちゃくちゃ徹夜して完全に昼夜逆転して、それでとんでもなく勉強した。

そんな生活を繰り返してたら風呂場でぶっ倒れた。

でも、英語の模試の点数が30点上がった。

日本史に命をかけることに決めた。日本史だけはあっという間に学年1位になった。

わたし、やればできるじゃんってちょっとだけ自信がついた。



みんなそもそも無かったような顔をしているけど、9月入学の話があった頃である。受験生は、忘れていない。

ひとつ言えることは、「9月入学なんて絶対にない!あなたたちは夏休みが絶対に潰れます、ということは、受験の天王山が無くなるってことだよ。だから、今すぐ、死ぬほど勉強しなさい」ってわたしを鼓舞してくれたあのYouTuberは正しかった。




そんなこんなで、学校が再開してすぐの頃は死ぬほど辛かった。

なんとか生きているのは大好きなロックバンドのおかげである。勝手に救われて、今日も今日とて生きている。ありがとう、わたしの推し。





運動会で騎馬戦がしたかった令和2年。



今の私たちに残っている「騎馬戦っぽい」ことはそう、受験である。



私たちは自分の未来に向かって騎馬を進める。騎馬が崩れたり、振り落とされたり、そんなこともあるかもしれない。



だけど、多分わたしは大丈夫だ。

6年間の女子校生活でゴリラになる術を学んだスーパーガールだ。ぜんぜん、いける。まだまだがむしゃらに走れる。だって、未来がある。



周りの友達の受験が終わっていく。合格報告を受けて泣いちゃうくらい嬉しいのに、置いてかれたようで寂しかった。



だけど、まだまだ行ける。ボロボロになっても、わたしの騎馬は進み続ける。崩れても何度だって立ち上がってみせる。



一女になって新歓でチヤホヤされたい。先輩のお金でタダ飯食べたい!だって華の一女だもん。理由になってねえな。


友達とダッフィーのカチューシャを付けてディズニーに行きたい。新設された美女と野獣エリアで、ポップコーンを買いたい。わたしは田舎に住んでいるので、都会の夢の国にはたいそう憧れがある。本当にミッキーはひとりしかいないのかなあ。


メイクだって頑張るんだ。くせ毛もストパをかけて、ばっさり切っちゃう。

みんなに認めてもらえるような、いや、みんなじゃなくていいから、わたしの好きな人たちにだけでいいから、可愛い女の子に近づきたいんだ。


新しい自分になりたい。

自分の好きな自分になりたい。

私も知らない私になりたい。




体育祭で騎馬戦はできなかったけど、その代わりの思い出ならいくらでも胸の中にある。



可愛いマスクを褒められたこと。


オンライン授業の裏で、LINEグループで馬鹿話をしまくったこと。そうしたらいきなりミュートを先生に切られて焦りまくったこと。


受験勉強で落ち込んでるわたしに、「休校で会えないけど、どうしても励ましたくて」ってGReeeeNの曲をボイスメッセージで送ってくれた友人。


クーラーを付けているのに窓を開けているせいで生ぬるい風が教室に入ってきて、下敷きでパタパタやったこと。「これも青春だねえ」って隣の席の子と笑いあったこと。


遠足で、大好きな相方と遊園地デートができたこと。


部活をしている後輩たちを見かける度に、死ぬほど羨ましくて、何度もマスクの下で唇を噛み締めたこと。


ソーシャルディスタンスのせいで友達と机を引っつけてお弁当を食べられなくなったこと。


「コロナに勝ったうちらがいちばん強いねって3月に証明してやろ!」って、第一志望合格を誓い合った遠い地域の友人に出会えたこと。



いろんなことがあったよ。あったけれどもさ。



「当たり前の日常が幸せでした」?



当たり前じゃない日常だって、幸せだ。





学校も受験も人生も、騎馬戦のように。


メンタルさえもゴリラで。

何度だって私たちは、戦い続ける。





ーーー



なんてことを令和2年の12月に書いていたようです。今日、スマホのメモから発見しました。


なんだかんだで卒業しました。


そろそろ華のJKブランドを酷使できるのも最後なので、ぜんぶの記憶として、これを投稿することにしました。


受験の結果がどうなったか、言いますね。

春から第一志望の大学に進学します。


きっと、新歓もないだろうし先輩のタダ飯食べられないし夢の国ももう少し落ち着いてから行くことになるだろうけど、たくさんのワクワク事を見つけて、なかったら創り出して、人生を面白い方向に動かしていきたいと思っています。

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