転生なんか望んでいません!
卯瑠樹 夜
第1話 森の魔女
「とりあえず、今日の分はこれくらいかな」
自分の畑から今日食べる分だけの食材を採るとレンガで作られた小さな家に入って行った。
彼女の名前は レイナ 森の奥深くに暮らしている。近くにある村人には"魔女"と呼ばれていた。何故なら歳をとらないからだ。
彼女が森に現れたのは今よりずっと昔、おおよそ120年も前だと言われている。
特に害を加える訳ではないが見た目が変わらないという異様さから村人は彼女に近づく事はなかった。また彼女の方も村人に近く事はなかった。ハズだった…
「魔女だ!見たかよ今の!」
「しっー!見つかったら食べられちゃうよ。」
「本当にいたんだぁ!」
魔女の家を少し離れた草影から覗いているのは村の子どもだった。
やんちゃな ルイ
おませな女の子 カレン
のんびり屋の トロワ
村では有名ないたずらっ子達だった。
好奇心おおせいの子ども達はずっと魔女を見てみたいと思っていた。何度かチャレンジしたが今日の今日まで大人達に阻止されていたのだ。
「ついにオレたちは魔女を見たんだ!」
ルイは得意気な顔で言う。
「ねー、でもどのへんが魔女なの?」
つまらなそうカレン。
「キレイな人だったねー。」
マイペースなトロワ。
「全然、魔女っぽくないじゃない。お野菜採ってそれだけよ?大きい鼻も杖も持ってない。」
カレンは納得いってないようだ。
「まー確かにな。聞いてた話より全然怖そうじゃなかった。もしかして、オヤジたちがオレたちに嘘ついてたのか?」
ルイがそう言うには理由があった。森に近づいて欲しくない親や村の大人達は子ども達に「森にはとても恐ろしい魔女が住んでいる。魔女の好物は子どもの肉だそうだ。大きな鼻で遠くにいても子どもの匂いをたどってくるそうだ。そして、持っている長い鋭い杖で…」
と話していたからだ。だが、実際みた魔女は普通の女の人にしか見えない。子どもたちはやっと見れた魔女に納得がいかなかった。
「もうちょっと近づいてみましょうよ。」
そう言うとカレンは魔女の家に向かってコッソリと近づいていく。
「お、おい!危ないぞ!」
「ルイ、もしかして怖いの?」
「そ、そんな訳ないだろ!」
挑発されたルイはカレンを追い抜き、ズンズンと魔女の家に近づいていった。
「まってよー」
トロワは2人について行くのに精一杯だった
遂に家の前まできた。だが家の中を覗こうにも窓にはカーテンが掛かっている。
「どうするんだよ?」
「ノックするとか?」
「こ、怖いよ、もうやめよう」
玄関の前で3人でヒソヒソ話していた。
その時だった。
ウウウウウウウッ
家の前の森の中から何かが唸る声が聞こえてきた。3人は慌てて振り向く。そこには魔女の家と同じくらいの大きさの犬のような獣がいた。鼻は大きく、歯は鋭く長い。獣は唸りながら子ども達の方へと近づいてくる。
恐怖のあまり声も出せず震える3人。なんとか逃げようと思うのだが大きな獣に睨まれて体は動いてくれない。
一歩、また一歩。獣はよだれを滴しなが近づいてくる。そして遂に襲いかかってきた。
「誰かたすけて!!!!」
恐怖に震えながらもルイは叫んだ。
「下がりなさい。」
女の声が聞こえたかと思うと周りが真っ白に光った。急な光に眩しさをこらえながらルイが目を少しあけると目の前に、さっきの魔女がいる。魔女と獣の間には大きな魔方陣があった。次の瞬間、森の方へと獣は吹き飛ばされた。
「ごめんね。」
倒れた獣に謝ると、なにやら呪文をとなえる。すると、獣は静かに息をひきとった。
そんな状況をみて固まったままの3人。
「大丈夫?」
優しく問いたが、ルイとカレンは魔女をみて小さく悲鳴をあげ、震えていた。
(…当たり前よね。あんなのみたら)
魔女はため息をついた。
「ケガしたの?」
震える2人をよそにトロワは近づいてきた。そして、魔女の右手を見ると悲しそうに言った。
「僕たちのせいで、さっきケガしちゃったの?」
魔女の右手からは血が流れていた。
「あなた達のせいじゃないわ。わたしの修行不足よ。」
優しく笑ってトロワに言った。
「でも…」
「大丈夫よ。そんな事より早く村に…」
ふらつく魔女。
「だ、大丈夫!?」
「平気。大きな魔法だったから少し疲れただけよ。それよりもう日が暮れてきてる。これを持って早く村へ帰りなさい。」
ポケットから取り出したのは、勾玉の形をした琥珀色のペンダントだ。
トロワがそれを受け取った時だった。
「トロワに触るな!」
「逃げるわよ!」
ルイとカレンがトロワの腕を掴んで走って行った。
「お姉さん!ありがとう!」
トロワは2人にひっぱられながら遠くになっていく魔女をみつめていた。
第2話に続く
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