黄色いスイセンは、夏に咲かない。
依織
— 黄色いスイセンは、夏に咲かない。—
プロローグ
私は私しかいないので、彼女になれません。
彼が好きな彼女にはなれません。
私が嫌いな彼女にはなれません。
私は彼に裏切られました。
私はそれを恨んでいます。
同時に彼女を妬んでいます。
私はあなたに愛される彼女になりたかった。
それでも私は彼女にはなれないのです。永遠に。
あなた方が犯した罪を、ネットで公開することにしました。よかったらみてね♡
▼▼▼
twi/er.con//sine a-/iinoni//:;@kiete
一章 少女
その日はやけに早く目が覚めた。
空はまだ薄暗く、時計の短針は3の数字を指している。何だってこんな早くに。頭がガンガンする。ぼんやりと霞がかった意識によびかけ、必死に昨日のことを思い出そうとした。唐突に記憶が浮かび上がってくる。
「そうだ、喧嘩したんだ」
両親と喧嘩して家を飛び出してそれで。それで…。
じゃあ、ここは一体どこなのか。
ひどく喉が渇いている。
ふと、先程までは気づかなかった誰かの体温に触れる。
「…っ」
ヤニ臭いニキビ面の男が目に入る。いかにも人間が安っぽいこの男は軽くイビキをたてて寝ていた。
裸で。
そこでやっと、
ああ、昨日この男とヤったのだ、
と思い出した。
昨日、家を飛び出したあと、スマホで
#家出先募集
とかいう投稿をしたんだっけ。馬鹿みたいな数のリプライ、DM。
大丈夫、何もしません。
安心して来てください。
んなわけねーだろばーか。こーゆーことは幾度となくシてきているからわかってる、怖くない。たまたま近くに住んでいたこの男に迎えにきてもらい、案の定家に着いた瞬間から襲いかかってきた。タバコの煙で黄色く黄ばんだかべに押し付けられて、静かにしろ、さもなくば、と脅された。別に覚悟してたし、慣れてるし。何とも思わなかった。
頭がだんだんと冴えるにつれ、感覚も起きてくる。下半身が気持ち悪い。昨夜父に殴られた頬がずくずくと痛んだ。一応女の子なのに顔を殴るのは最低だと思う。自分を棚に上げて、そう毒づいた。
裸のまま布団から降りて、下着と服を拾い、きた。あの男、あまりにも荒々しく服を投げるもんだから、靴下を探すのに少し手間取ってしまった。
トイレを借りて用を足し、洗面所で手を洗う。つめたい。
必要以上に水を出して、長時間手をさらした。こうしていると、自分の中の汚いものが流れ出ていく気がするから。
水垢だらけの鏡に映った私は、ひどく醜かった。
腫れ上がった頬は紫色に変色し、ボサボサの髪と赤い目。
いや、見た目じゃない。
父は昨日、私を汚いと罵倒した。母と妹は汚物を見るような目で私を見た。その時はまだ殴られてなかったし、髪もセットしていたから、きっと私自体が汚物なんだろう。
汚い。汚らしい。いつからそんなに汚くなったんだ。
うるさいうるさいうるさいうるさい。
お前が悪いんだろう。お前が、お前らが私をそうさせたんだろう。
昨日の会話を反芻する。
ぼーっとしていたら、いつの間にか5時を回っていた。男に私の素性は知られたくないので、こういう時はいつも、男が起きて来る前に家を出るようにしている。手櫛で髪を整えて唯一の手荷物であるスマホをもって男の家を後にした。今度はもう忘れない。念のため募集の時に使ったTwitterのアカウントも消した。
古びたアパートの外に出る。入れ違いで誰かが入った。
7月の風が私を非難する。
途中コンビニで痣を隠すものを買おう。
深呼吸、
ここから私は、至って普通の16歳にもどるのだ。
二章 少年
今、僕は恋をしている。
彼女のことを考えると胸がきゅってなって、頭がぐるぐるして、頬がほてる。
これは恋としか言いようがない!!
もうすぐ夏休みに入ってしまうから、彼女と会えなくなってしまう。うう、どうしよう。
「悠真?聞いてる?」
咄嗟に話しかけられ、びっくりしてしまう。
「あー、また一ノ瀬みてたなあ。いいねー青春してんねえ」
もう1人がにやけ顔でこちらを見る。
「うっ、ち、違うし…」
素直に認めるのが恥ずかしくて、少し抵抗する。かなり無理があるのは承知だが。2人はそれぞれふーん?とかへえ?とかにやにやを浮かべてこちらをみる。
「お前ほんとすきだな、一ノ瀬。まーかわいーけどさ。」
「ここ半年ぐらいずっと一ノ瀬さんのこと見てるよね〜」
2人は僕の友達の翔と和馬。
プリン気味の金髪でピアスしてヘラヘラしてるのが翔、黒髪眼鏡のシュッとした美形男子が和馬だ。(2人ともなぜ僕と仲良くしてくれるのか分からないほど平凡な僕とは真逆だ)そして、
一ノ瀬 えりかさん。
僕の好きな人だ。
今日も今日とでとても美しい。今日は風邪気味ぽいらしくマスクをつけているが、マスクをつけていてなおわかる鼻の高さ。まっさらな肌は傷一つついてない。制服から伸びた手足は細長く、まるで一輪の花のようだった。
そこまで考えて、翔と和馬がまたにやけ顔でこちらをみていることに気がついた。いけない、また一ノ瀬さんに見惚れてしまってたみたいだ。
「ちがうってばあ…」
せめてもの抵抗も虚しく2人からの視線に口を噤んだ。
「それよりいいの?日直。黒板。」
和馬が親指で黒板の方向を示す。先ほどまであったはずの数式が綺麗に消え、縦に白く消し後が伸びていた。
「あ、忘れてた」
「一ノ瀬さんばっか見てるから」
和馬がふふ、と笑みを漏らす。
「やっぱなあ、志賀サンに謝りにいけよおー?」
笑いながら僕の肩をバシバシ叩く。痛いよ翔…。まあしかし謝りにいかなくてはならないのは本当なので、自分の席をたち彼女の元へ向かった。
志賀 宮子さん。
この高校は、出席番号順で日直をやる決まりで、たまたま僕と共に日直になった女子だ。志賀さんはちょっと、というか、かなり大人しい女子で、誰かと話をしているのをあまり見かけたことがない。だから僕は、なるべく彼女に優しく接する。彼女も、僕のことはよく思ってくれてるみたいで少し嬉しい。
「志賀さんっ!!!ほんっとーにごめん!!!」
開口一番そう志賀さんに告げる。
志賀さんは驚いて読んでいた本から顔をあげ、そしてああ、とでもいうように僕に柔和な表情を向けた。
「黒板?だよね。全然いいよ、佐伯くん。私、暇だし」
「でも日直だし…!ほんとごめん!次忘れてたら声かけてください…」
志賀さんが優しいのが申し訳なくて、語尾がしゅんとなる。志賀さんはいいよー大丈夫だよーと微笑んでくれる。
違和感。
「志賀さん、もしかしてだけどほっぺた、腫れてる?」
笑った時の頬の盛り上がりが右だけおかしい…ような。心なしか赤紫っぽくなっている気もする。
志賀さんがほんの一瞬固まる。
「や、やだなぁ佐伯くん。きづいちゃった?今朝寝ぼけてドアにぶつけたんだ。あはは…。ファンデで隠したつもりだったんだけどな」
すぐに笑顔になって右頬を覆い隠すようにして手で撫でる。その時はふーん、そうなんだ、痛そうだな。ぐらいにしか思わなかった。
僕はそっかーといってまた、翔と和馬の元に戻った。一ノ瀬さんの視線の先が志賀さんに向いていた…ような気がした。わかんないけど。
2時間目が始まって、志賀さんの怪我も、一ノ瀬さんの視線のことも、考えるのをやめてしまった。
三章 追想
幼い頃、両親に捨てられた。
だから本当の親の顔は知らない。というか、覚えてない。
私は多分望まれない子だったのだろう。
児童養護施設に預けられ、里親が来るまでそこで生活した。
施設に預けられて12年目、私を引き取ってくれる人達がきた。その時私は15歳。
第一印象は、優しそう、だった。
ここがあなたの家よ、おかあさんおとうさん!ってよんでいいのよ、ご飯は何が食べたい?なんでもいいわよ、ここが部屋だぞ、好きにしてくれていいんだ
実際優しかったし、いっぱい助けてもらった。裕福なのか家も大きかった。子供のころ甘えられなかったからか、甘えたい、という欲はとどまることをしらなかった。
その夫婦には、実の娘がいた。最初は子供がいるのに新たに引き取るなんて、珍しいな、と思った。でも理由は割とすぐにわかった。
その子が
出来損ないの失敗作
だったから。
彼らに言わせれば、馬鹿でノロマでクズらしい。特におかあさんは酷く嫌っていた。だから私もそのように扱った。なぜ彼女がそう扱われてるのか、気にも止めなかった。ただ私は大好きなオトウサンとオカアサンに愛されたかった。もっともっと、わたしだけを見て欲しかった。あの子にあげるご飯があるなら、私にデザートを作って欲しかったし、あの子に着せる服があるなら私に可愛い服を何着も持たせて欲しい。本当に彼らの子供になりたいと願った。だから、あいつに彼らの血が流れていることを妬ましく思った。あいつを見るたびにイラついた。事実彼らも「あなたが本当の娘だったらねえ」と言ってくれた。でも、親戚付き合いや世間の目があるから簡単にあいつを捨てられないらしかった。
そっか、あいつが自分で出てけばいいんだ!
馬鹿でノロマでクズな私のおねえちゃん。私の日記を勝手に見て、勝った気になってるようだけど、どこで買ったのか、与えられてないスマホをコソコソと使っているのを私は知っていた。馬鹿なお姉ちゃんは一回だけスマホを堂々と置きっぱなしにして高校へ出かけた。パスワードは誕生日。あははっ。なんて単純。全部写真撮って、印刷した。
おねえちゃん、私のために消えてね。消えろ!しんで!しね!!!!!
そして私がほんとの子になるの。
四章 前夜
ひたすら眠気との戦いだった終業式のあとのクラスは夏休みへの期待で活気に溢れている。僕的には一ノ瀬さんと会えなくなるからやなんだけど…。
そんなことを考えながら帰り支度をしていると一ノ瀬さんが話しかけてきた。まだ風邪気味なのだろうか、マスクをしていた。
「佐伯くん、ちょっとお話しいいかな…?」
いつも遠くで見てる憧れの顔が近づいて来る。
途端、心臓が急に早く動き出して顔が赤くなるのを自分でも感じた。噛み殺していた欠伸もいつのまにか消えている。
「えっ!はい」
思わず声が裏返ってしまう。
翔と和馬がまたクスクスと笑ってる。
アブラゼミまでも僕を笑っているように聞こえる。
一ノ瀬さんの口角もあがっていた。
「佐伯くん、明日、予定ある?」
あ、し、た、よ、て、い、あ、る?
これは、そういうことか?デ、デートのお誘いということでいいのだろうか。いやまて、まだ予定を聞かれただけだ、みんなであそぼう、とか、私の代わりに犬の散歩しといて(一ノ瀬さんが犬を飼っているかは知らないが)、とかの可能性もある。ここで変に舞い上がってしまうと違った時がきつい。うん。そう、ここは慎重に…
「明日、何も、ない、です」
緊張しすぎてカタコトになってしまった。
後ろで翔が吹き出す。後でいじられるやつだ…。
「そっか…ねえ、よかったら二人でどこか行かない?」
二人でどこか行かない?
二人で どこか行かない?
ふ、た、り、で、
頭の中に一ノ瀬さんの凛とした声が反響する。
体温が一気に上昇して脳が沸騰しそうだ。
「行きます」
即答していた。
五章 真実
子供の頃、私はとても愛されていた。
甘やかしてもらっていた。
裕福なくせに共働きで少し寂しかったが、それもこれもぜんぶ私のことを思ってかせいでくれていた。たくさん愛情を注がれていた。
絵に描いたような幸せな家族。
長く続かなかった幸せ。
壊したのはお父さん。
早めに月経がはじまって、少しづつ大人っぽくなっていく私。
お母さんが出張中の夜、父に突然寝室に呼び出された。
愛してる。
そう言われて服を脱がされた。
今から何をされるのか、されようとしているのか、本当は気づいてた。気づいてたけど、受け入れた。だって、お父さんのこと好きだもん。
それからは、お母さんが出張の日は決まって呼び出された。もちろん罪悪感はあったが、無理に断ってお父さんに嫌われる方が、今の幸せを手放してしまうことの方がもっと怖い。11歳の私は、まだ幼かった。何もかも。
ある夜、いつもと同じようにお父さんに呼び出された。いつものように服を脱いで、いつものように愛されてた。そろそろ慣れてきて、どのようにしたらいいのかとか考える余裕が出てくるようになった。なのに。
「なに…してるの………?」
お母さんが棒立ちでそこにいた。
今日はお父さんの誕生日だから、出張を切り上げて日帰りで帰ってきたらしい。
そうか、誕生日か。
口を半開きにしたまま全裸でそんなことしか考えられなくなってた。
そこからは、いわゆる修羅場だ。
お母さんは泣き叫び、お父さんは私が誘ってきたんだ、と嘯く。
私はいらない子になった。
実父を性行為の対象に見る気持ち悪い子。
愛されなくなった。
構ってもらえなくなった。
父は何故か母と仲直りし、私をゴミのように扱かう。
そんなの耐えられない。
両親に愛されたい。
誰かに愛されたい。
寂しい。寂しい。泣きそう。寂しい。誰でもいい、なんでもいい、抱きしめて、かまってかまって愛して。
友達にこんなこと言えない。
誰もきっとわかってくれない。
幼いながらにおもった。
私は家を飛び出した。
その時私は13歳だった。
なんとなくの知識のある私はお母さんのスマホを勝手にもちだし、Twitterというもので「愛されたい」
という文章とともに、自撮りをツイートした。
すぐにはーとの数が二桁になりグルグルもいっぱい回った。
会いませんか?
会いましょう。
それが何を意味するのかは察しがついていた。
だけど、誰かに愛されたかった。
はい。まってますね。
>>送信
どれだけ乱暴に扱われようと、どれだけ犯されようと、満たされればよかった。愛されればよかった。
たまにお金をくれる人もいたから、そのお金でスマホも買った。未成年だとバレないよう、化粧品も買った。幸い成長が早く、背も高かったから8:2ぐらいの割合でバレなかった。
15歳の時まではそれでよかった。
家では嫌われてるとは言え、世間体を気にしているのか食事も服も与えられたし、夜は友達のところに行くと言って誰かとセックスした。父は私に関心がなくなったのか話しかけてすらくれなくなった。
それが逆にありがたかった。
私は十分やっていけてた。
あいつがくるまでは。
あいつのせいで歯車は狂った。
あいつは私がいろんな男とやっている事を母と父にばらした。そして、私を汚いと罵り、父は私を殴った。蹴った。妹は、宮子は、私のお腹を執拗に蹴った。しね、しね!しね!!!母はまたもや泣いた。私は今度こそ出ていくしかなくなった。
でも、出て行く時ににやにやしていた宮子の右頬をぶっ叩いたら気が済んだ。ふふ。もうどうでもいいや。
ある計画を実行することにした。
六章 ある日の記憶
7月の早朝、いつものようにランニングをしていた。たまには、と、いつもと違うコースで走りった。一人暮らしの兄のアパート近くまで来たので、どうせならとよっていくことにした。割と兄弟仲はいい方なので、おどろくかなーとか思いながらかけよった。
薄汚い水色のアパート。入ろうとした。
女の子とすれ違う。
一ノ瀬 えりか?
咄嗟に声をかけようとした。
でも、なんとなく、今声をかけたらいけない気がした。左頬に赤紫色のあざを浮かばせているのも、話しかけるのを躊躇わせた要因である。
一ノ瀬は一軒家に住んでいるはずだ。何故ここにいるのか。何故こんな早朝に?
かちっ
あれ、ピンポンを押さなきゃな、と思ってたのに。鍵はあきっぱだった。
「にいちゃーん…」
寝てるよな。このままかえってもよかったが、さっきの一ノ瀬と兄ちゃんの部屋の鍵が空いていたことが気になってかってに靴を脱いで上がった。
ベットの上で兄ちゃんは寝ていた。俺と同じようなプリン色の髪の毛を広げて。不自然に空いた一人分のスペース。側によると、長い黒髪が落ちていた。ゴミ箱には使い終わったコンドーム。
一ノ瀬 えりかは援交をしている。
そう、直感的に思った。
だってもし付き合っているのだったら、朝までいたっていいはずだ。
その朝は結局、兄ちゃんと会話せずに速やかに帰宅した。
別に一ノ瀬がエンコーしようが何しようが正直どうでもいい。でも、自分の兄とクラスメイトがセックスしてるのはちょっと複雑だ。あと、兄ちゃんが一ノ瀬を殴ったのだとしたらそれはきちんと言わなくては。まあ、きっとこの先その事を思い出すこともないだろう。
ランニングから帰った後で疲れてたのか、だんだん意識が蕩けてソファの上で眠っていた。
七章 決行日
「佐伯くん、私さ、義理の妹がいるんだ!」
僕ら以外、誰もいないバスの中、一ノ瀬さんは明るいトーンで唐突に話し始めた。そんな話は初耳だったし、いつもの一ノ瀬さんとは少し雰囲気が違う気がして怖かった。
「へ、へえ…」
なんて返せばいいのか分からず、Mサイズのチョコチップフラペチーノに手をつけられずにいる。せっかく一ノ瀬さんが買ってきてくれたのに。
「それでね、志賀宮子って言うんだけど」
「しがみやこ?って、あの志賀宮子?」
思わず聞き返してしまった。
「そう、あの志賀宮子。日直一緒だよね」
やけに饒舌な一ノ瀬さん。
夏休み初日にいきなり一ノ瀬さんとデートだというのにあまり楽しめずにいた。マスクをしたまま、妙にぎらついた目で喋る一ノ瀬さんを怖いと感じてしまうほどに。
「ねえ、飲まないの?それ」
チョコチップフラペチーノのことだ。
「のむのむ!持ってきてくれてありがと、いただきまーす」
そういうと、一ノ瀬さんはにこっと笑った。
「ねえ、悠真くん」
「ぐふっごほっごほっ」
いきなり名前で呼ばれて思わずむせてしまった。
彼女はそんなこと気にも留めないようにつづける。
「私のこと好き?」
「ぐへっゔぉえっごふぁっ」
さっきより派手にむせてしまう。
いきなりの展開に脳がグルグルする。
吐き出したチョコがやけに甘く感じる。
むせたまま、きっとこれは彼女なりの告白なのだ、と都合の良い解釈をして必死に頷いた。
「そう、ならよかった!」
と満面の笑みを浮かべた彼女に、自分の解釈は間違ってなかったのだと安心させられる。
まだ脳がグルグルする。これは、これは本当に告白のせい?瞼が重くなる
「よかった…!じゃあ一緒に」
スクリーンは黒く塗りつぶされていく。
「死のうね」
そうして彼女はマスク越しに、痣をそっと撫でた。
八章 エリカ
その日記を見つけたのは、ちょっとした偶然だった。
何度目かのスマホの隠し場所を考えていた時に偶然にも出てきたのだ。
最初、それが何か分からず、なんとなく開いてみた。そこには狂気といえるほどの数
「えりか、死ね」
と赤ペンで綴ってあった。
鳥肌がたち、閉じようともしたが、1ページだけ、他のページと明らかにちがうページが目に止まった。今度は緑色のペンでページ一面に
「佐伯悠真くん♡」
佐伯悠真くん。
大嫌いな人と、大好きな人とが共存している狂った日記帳をぎゅうっとつよく抱いた。
へええええええええええええええええ
歓喜に肌が沸き立つような感覚を覚える。
これはいい事を知った。
そうだ、彼女への復讐はこれにしよう!
この狂った日記帳みたいに、大嫌いな私と大好きな悠真くんが一緒になったらどうだろう。
私達が裸のまま抱き合った死体で発見された時、宮子はどんな顔するんだろう。
想像するとニヤケが止まらない。
なんでも手に入れたい彼女の欲しいものが、永遠に私のものとなって発見されるのだから。
ふふふ、ふふふふはは。
自然と口角が吊り上がる。
エピローグ
『〇〇県××市の△△にて全裸で横たわる男女二人の遺体が発見されました。いずれも高校生と思われ、少女は手に季節外れの黄色いスイセンの花と遺書を握りしめており、その冒頭部である「私は彼女に…」の部分がネットで話題を呼んで…』
テレビから聞こえてきた不穏な言葉に、思わず飲んでいた麦茶を溢しかけた。
「カップルが心中かしら…。まだ若いのにねえ。」
母がそう呟いた。
なにか、嫌な予感がした。
ふと、3日ぐらい前から連絡が取れない悠真が思い浮かんだ。
「翔…これ…」
母親が呼びかける。
「これ、あんたの高校じゃない?」
インターネット上では『高校生カップル心中か。』という見出しの下に、つい四日前まで通っていた高校の名前がデカデカとのっていた。
その日、その記事の下の方に小さく『一家心中?少女の遺書と性的虐待、家族3名の死』という記事も載っていたが、気づいた者はそれほど多くなかった。
黄色いスイセンは、夏に咲かない。 依織 @Itokawa_ito
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