クッソラグい!
アルティ・メット
クッソラグい!
世界初となる待望のフルダイブ型MMORPGゲームがいよいよリリースした。
今日はその初日である。
プレイヤーはまず自身のアバターを作成し、次に20の初期ポイントを体力、防御力などの各種ステータスに割り振る。
それが終われば遂にゲームスタートだ。
初期リスポーン地点は三つあり、その中からランダムで決まる。
だが、いずれもやることに大した差異はなく、簡単なチュートリアルをこなしながら俗にいう始まりの街的な場所を目指して進むのである。
今日はリリース初日と言うこともあって、初期リス地点には多くの初心者装備を身に着けたプレイヤーが集まっていた。
だからだろうか、ひときわ目立っているこの男も、最初の内は一プレイヤーとして周囲に埋没していた。
しかし、時が経つにつれその男の異常性は浮き彫りになってゆく。
あるプレイヤーは、その男とほぼ同タイミングで初期リス地点に降り立った。
そのプレイヤーを仮にAさんとでも名付けておこう。
Aさんは、男のすぐ近くでリスポーンしたので自然と男のことは目に入ったという。
男のアバターは、気合を入れてキャラメイクしたのであろう、大昔に流行った人気アニメに出てくる二刀流の剣士でスカシたハーレム主人公君によく似ていたそうだ。
だが、せっかくそんな見た目をしているというのに男の行動は、冷静沈着と言う言葉からかけ離れていて、周囲をキラキラと輝かした目で見まわし、子供の様にはしゃいでいたという。
思えばAさんは、その時から違和感を感じ始めていたのかもしれない。
なぜならば、男の動きが全体的にぎこちなく、古いロボットを連想させるようだったからだ。
それに聞こえてくる男のセリフが、何だか途切れ途切れで聞きづらかったも要因の一つであろう。
違和感が確信に変わったのは、それからすぐの事だった。
意図は不明だが突然男がその場でジャンプをしたのだ。
筋力値にかなりポイントを振ったのか、男は平均的な成人男性ほどの高さを飛んで見せた。それ自体はまぁ凄くはあるが、特筆して驚くようなことではない。にもかかわらずだ、数秒後のAさんは驚きと困惑で固まってしまっていた。
(おいおい、嘘だろ。ありえねー、滞空時間が長すぎる!なんであいつは落ちてこねーんだ!まるであいつにだけ重力が働いてねーみたいな……。――まさか、既に何かのスキルを習得してるとでも言うのかよ!?)
男は空中で直立したまま、ガイドが示す街の方向を涼しげな顔で見つめ続ける。
その様子がAさんの目には、男が街どころかもっと遠くの、それこそ想像もつかないような遥かな高みを見据えているように映ってしまった。
(何者なんだ、あの男は……)
嫉妬や敗北感、そして寂しさのような色々な感情がごちゃ混ぜになった形容しがたい気持ちがAさんの胸を締め付ける。
男が再び地面に足を付けたのは、それからおよそ一分後の事だった。
男は確かめるように握った拳を見つめる。それから顔を上げて、街までの道を認めると一気に駆け出した。
そして、またしても異常事態が起こる。
男の走り方というか、走る姿が自分の目を疑わずにはいられないほど奇天烈だったのだ。
男の姿がブレたかと思えば、次の瞬間には少し離れた場所にいつの間にか出現し、またぎこちなく動き出して姿がブレ始める。
動き出す予兆はともかく、出現場所に関しては一切分からなかった。
「あれも何かのスキルなのか?」
おかしい、あまりにもあの男は異常だ。
Aさんと男の二人は、時同じくして始めたルーキー同士のはず。
それはあまり差異が見られない二人の装備を見れば分かる事実だ。
だというのに、なぜここまで実力に差があるのだろうか。
一方はスキル無し。一方は最低でも二つのスキルを持っている。
「まさか、
無意識にAさんは呟く。
だが、すぐさま首を振って口に出た言葉を否定した。
このゲームは高性能管理AI によって24時間休みなく監視されている。もしも、怪しげなプラグラムを検知すれば即刻アカウント停止処分だ。
だが、今のところ男が運営から何か処分を喰らったような様子は見受けられない。
であれば、男は純粋に複数スキルを習得したルーキーだということなのだろう。
「まさか、βテスター……」
あやふやな思考のまま漏れ出した一言だったが、それは口に出してみれば確信をついているように思える。
あくまで噂の域を出ないが、βテスト中に使用していたアバターを任意で製品版の方に引き継げるサービスがあるとかないとかで、Aさんもそんな話を聞いたことが有った。
「クッソ、初日でここまで差があんのかよ」
Aさんは、おもむろに腰に装備した剣を抜き放つと、まるで駅前でパフォーマンスをするパントマイマーのような不自然な恰好で固まっている男の残像に向かって叩き込んだ。
突然のAさんの奇行を目撃して、周囲のプレイヤーがどよめく。
「アンタ、一体何してんだ!いきなりPKとか頭おかしいんか?」
そんなプレイヤーの内の一人が問い詰めるようなセリフを吐きながらAさんに近寄ってきた。
「ちげーよ、ただ実力の差ってやつを嚙みしめてただけだ」
「はぁ?何をわけわからない事を言ってやがる」
要領を得ないAさんの返答に、話しかけてきたプレイヤー含め周囲の連中がAさんに胡乱な視線を向ける。
Aさんはその視線に先程斬り付けた男の残像見て見ろとばかりに指をさして答える。
「――っんな!?消えやがった!」
「ソイツはたぶん、いや十中八九βテスターってやつだ。そこに居るのも、何らかのスキルで生み出された残像で、本体はもうとっくにここには居ねーだろうよ」
混乱して目を回すプレイヤーたちに、Aさんは自分が見てきた男のことを告げた。
「マジかよ!? アバター引継ぎできるって聞いてたが、こんなことまでできるのかβテスターってやつぁ……」
「あぁ、俺たちの遥か先を行っていやがる」
「スタートからこんだけ実力差があるとか、ズルすぎだろ」
「だな。だが、俺は諦めねーぜ。すぐに追いついて、そんでもって追い越してやるさ」
戦意喪失気味なプレイヤーたちに向かって不敵な笑みを浮かべたAさんは、堂々とそう宣言した。
後にAさんは、縮地や残像など様々なスキルを使いこなす、対人戦最強のプレイヤーとして有名になったという。
これは余談だが、約一時間後Aさんは街中で突然身に覚えのないキルログが発生し、犯罪者プレイヤーとして衛兵のNPCに捕縛されペナルティーを受けることになったという。
―――
物件は自分で探した。
家賃など生活費は自腹と言われているので、出来るだけ安い賃貸を探し求め、遂に見つけたのが、都内のそこそこいい立地でありながらも3万円の家賃で済み、部屋も2Kで風呂トイレ別、更に家賃にネット代も含むと言う破格の条件であるこの物件だった。
あっという間のスピード契約を果たし一国一城の主となった永井圭。
しかし、いざ引っ越しとなる少し前から流石に話が美味すぎやしないかと疑問に思うようになり、段々と不安が込み上げていた。
なにかいわくが、それも人が死んでるレベルのやつが付いているんじゃなかろうかと。
だが、いざ引越しを済ませ住んでみると想像よりも遥かに快適であった。
まぁ、古い建物であるのは確かなのだが、だからと言って別に汚いわけでもなし、雨漏りや隙間風が吹くわけでもない。
さらに言えば、集合住宅でありそうな隣人との騒音トラブルが起きそうな気配もなさそうだ。
永井圭的には、実にお買い得で過ごしやすいアジトを手に入れられた気分である。
だが、やはりこの物件のも安いには安いなりの理由というものがしっかりとあった。
それが永井圭に牙を剥き始めたのは、彼が大学生活に慣れ始めた頃だった。
元々、契約の際に大家からネット回線が弱いという問題については聞いていた。
それでも、流石にそんな酷い者じゃ何だろうと高を括っていたのだ。
実際、住んで一月ほどは特にネット関係での問題も起きなかったことだし。
しかし、ある日初めて友人たちが永井圭の家に遊びに来た時のこと。
彼らは当たり前のようにAR機器を使って遊ぶことを提案した。
ARとは拡張現実のことである。
現実の視界にネットのアイコンのようなものを表示させる機器という認識でいいだろう。
この時代では、我々の感覚でいうところのスマホくらい当たり前に普及しているもので、読書やナビ機能などは勿論、ゲームアプリなども充実している。
当然永井圭も所有していた。
今どきは、その手軽さや利便性もあってトランプなどを始めとしたボードゲームの類は、このAR機器を通して視覚を共有して遊ぶのが主流だ。
けれど永井圭の地元では、きちんと道具を用意して遊ぶ、レトロなこだわりを主張する人間たちが溢れていた。
であるから永井圭は、友人の一人が提案した人生ゲーム的な定番処のアプリも持っていなかった。
せっかくだからお前もダウンロードしてこれで遊ぼうぜ、と言う方向で話がまとまり、永井圭は早速アプリを落とそうと試みる。
この時代の通信速度から考えればその程度のアプリ如き、一瞬で済む程度のデータ量だ。
そう楽観していた。だが、一向にダウンロードは進まない。
一時間近く待ってみても、進捗状況は1パーセントが3パーセントに動いた程度の変化しか起きなかった。
あまりの通信状況の悪さに友人含め永井圭は絶句した。
幸い、そのアプリは一度ダウンロードを済ませればネット接続など特に必要がなく、友達と視界を共有するにしてもPSP的な感じで何とかなるので、お菓子などを買いに行っている間に終わるだろうという意見が出る。
おかげで、さして問題なく解決することとなるものの、それ以降永井圭の家に遊びに来た者たちからは、その建物の古臭さも相まって、彼の家のことを『万葉集』だとか『ネアンデルタール』などと好き勝手あだ名をつけて笑ったという。
それを聞いた永井圭が、せめて建物か地名のあだ名にしてくれと思ったのは友達には内緒だ。
そんなクソ回線を極めたような彼が、果たしてなぜ最新ゲームのフルダイブ型MMORPGに手を出したかと言えば、それはノリで申し込んだ懸賞で当たったからである。
一名様限りのプレゼントというそのゲーム機器は、当時全くそれ系に関心のなかった永井圭でさえよく耳にするほど話題になっていた。
テレビを見ればたいていCMが流れ、永井圭もニュースや友人などを通して概要については知っている。
まるで異世界に入り込んだような感覚に浸れるらしい。
そういえば大昔には、そういった話が流行ったのだとオタクの父から聞いたことをぼんやりと思い出す。
とにもかくにも、どうやら物凄く評判が良く、ゲーム機も生産台数が少なくて中々手に入らないこともあって、売ればそれなりの金になるらしい。
永井圭もそれを聞いて最初は売ることを考えた。
だけど、話を聞いたり自分でも調べているうちに一度くらいプレイしてみたいかも、と思うようになりゲームを起動することにしたの。
そこには、これだけ話題沸騰してるならどうせ中古でも高く売れるだろ、というゲスい打算も含まれていた。
そんな感じで、いざプレイを開始する。
まずはキャラメイクだ。
モデルとなるのは、実家においてあったラノベの主人公。
クール系のイケメンである。
続いて行うのはステ振り。初期で得られる20ポイントから、各種ステータスにポイントを割り振る作業だ。
そこで早速『万葉集』とあだ名される永井圭の家の通信速度の遅さが出た。
いくらステータスを振ろうとしても操作が反映されないのだ。
しばらく待ってみても状況は変わらず、もしかしたらちゃんと押せていないのかもしれないと再度ボタンを押してみるが、ゲームのSEは鳴るものの反映はされない。
段々とイライラしてきた永井圭は、適当にボタンを連打し始める。
そしてようやく動いたかと思ったら、なんと筋力値にポイントが20振られた状態で確認画面がでる。
『これでよろしいですか?』
YES
NO
こういうのは均等に割り振りたい質である永井圭は、よろしいわけねーだろとNOを選択しようと思い直前で躊躇う。
またさっきみたいになったらダルイなーと。
それに、あとでレベル上がった時に筋力以外の項目にステ振ればいいかと思い直して、YESを選択した。
ちなみに永井圭はゲームが下手であるし基本脳筋思考なので、偶然とはいえちょうど良かったのかもしれない。
そんなこんなでようやく初期リス地点に到着する。
永井圭が飛ばされたのは、三つあるうちの一つ『若葉の森自然公園』である。
名前はともかく、永井圭は視界に映る雄大な景色に感動していた。
ゲームの評判通り、本当に異世界に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚える。
思わずスゲーと叫んでしまったほどだ。
景色を見回すうちに永井圭は、視界の隅にピコピコと光るアイコンに気が付く。
メッセージアプリのようだ。
仕様はAR機器の操作と変わらないようなので、慣れた手つきでメッセージを開く。
内容はただのチュートリアルだった。
永井圭はチュートリアルの指示に従ってステータス画面を開く。
そこには自分のアバターの情報が記載されていた。
キャラネームは『ケイくん』である。
実名であることに加え名前に君付けなので、我々の感覚で言うと初めてスイッチを手に入れた小学生を連想してしまいそうだ。
そして筋力値が異常に突出して高いのは、さっきほど割り振った初期ステータスポイントの影響だろう。
このステータスとやらがどれだけ肉体に作用するのかを確かめてみようと、永井圭は簡単な動作を試みる。
その場でジャンプしてみると、思ったよりも高く飛べた。
大体、自分の伸長と同じくらいの高さだ。これには永井圭もびっくりである。
しかし、何だが体が上手く動いていないような気がする。妙に動きが重いというか……。
それに視界も違和感が酷い。まるで景色が飛ばし飛ばしで見えているかのようだ。
やけに長く感じる滞空時間が終了し、着地してから周囲の同じような初心者プレイヤーを見てみる。
やはりというか、コマ落ちして動く出来の悪いアニメを見ているようだった。
周りだけでなく自分はどうなのかと、拳を握ってみたが、同様に少し動きが鈍いように感じた。
(まぁ、いいか。VR世界なんて初めてだしな、多少のもどかしさは仕方ないのかもしれない)
これだけリアリティーの高い仮想世界の中に居るだけに、高望みなことを考えてしまったのだろう。
永井圭はそう心に言い聞かせて、自身の感じる違和感を受け入れることにした。
だが、次に行った動作でようやく永井圭は、おかしいのはこの世界ではなく、自分の方だということに気が付いたのだった。
(か、身体がピクリとも動かねぇ……)
永井圭がチュートリアルに従い、最初の街に向けて駆け出してから僅か三十秒後の事だった。
相変わらず妙にカクついた動きだったが、それまでは確かに進んでいたのだ。
しかし、永井圭は唐突に動きを止めた。それも、明らかに不自然な体制で。
端から見れば躍動感たっぷりの彫像のようだとのんきな感想が漏れてきそうだが、本人はそうもいかない。
何せ、どんな馬鹿だって理解できてしまえるくらい、はっきりとした異常事態が起きているのだから。
(新手のスタンド使いか!?)
突然世界の時が止まったような混乱の極致にいる永井圭は、ふと実家で読んだ漫画のワンシーンが脳裏をよぎり、意味もなくそんなセリフを叫んでしまう。
だが、当然のように体は動かないので声にはならない。
あぁクソと悪態を吐いてやりたくなる。
それから数十分立っても状況は変わらず、依然として永井圭は固まったままだ。
さらに数分が立ち、ようやく永井圭にも多少まともな思考が出来るくらいの余裕が生まれていた。
そこで、このような異常事態が起きた原因に気が付く。
それは、本来このように通信技術が発達した永井圭の時代からすれば、あり得ないハズの事だ。
(まさか、原因は俺ん家のクソ回線なのか?)
この時代にゲームがラグで固まるなんて事態はほぼあり得ない。
それゆえに、すぐに気が付くことが出来なかったのだ。
しかし、そうとわかればすぐにログアウトしてやろうと、視界の端に浮かぶアイコンを操作しようとするが、何一つとして反応が返っててくることはなかった。
そのことに永井圭は絶望した。
俺はいつまでこうして止まっていればいいんだ、と。
本来ならばゲーム機を強制終了すればいいのだが、永井圭はその強制終了のやり方どころか、存在も知らなかった。
なぜなら彼は説明書を読まない人間だからだ。
こうして永井圭は、無限にも思える静止した時間を過ごす羽目になり……やがて、考えるのを、止めた。
第二部・完
「まだ終わらねーよ!」
終わらないらしい。
一時間近い時を止まったまま過ごした永井圭。
健常者であれば、普通こんなに怖い目に合ったら場合、動けるようになればすぐにログアウトすると思うが、馬鹿なこの男は、どうせなら戦闘も経験してみたいと考えたらしい。
ネット環境もさることながら、この男の精神性もまた異常なのかもしれない。
それから、ネット回線が頑張ってくれたこともあって、割かしスムーズに戦闘を体験することが出来る場所まで辿り着くことが出来た。
戦闘チュートリアルである。
雑魚そうなウサギっぽいモンスターが茂みから飛び出して、永井圭を威嚇する。
「なになに、ストレージから武器を取り出そう……おお出てきた」
目の前に出現したテキストを読みながら、言われた通りの行動をとる。
永井圭が手にしたのはロングソードであった。
さて準備も整い、いざ実戦開始……というところでまたしてもネット回線がへそを曲げ始める。
先程よりは酷くはないものの、永井圭は鞘から剣を抜き放とうというところで動きが止まってしまう。
(おいおいおい、タンマタンマ!そりゃズリぃって)
そうはいっても、ウサギモンスターには永井圭の事情をくみ取る知能も理由もないので、動けないままじわじわと嬲られることになる。
しばらくして、ようやく剣を抜き放って構えを取れるようになったのは、永井圭のHPバーがイエローゾーンを表示するころだった。
そして、ようやく動けるようになったものの、依然として動作は遅いままである。永井圭がウサギモンスター目掛けて剣を振り下ろしても、それが影響して簡単に避けられてしまう。
そして、がら空きの胴体に痛烈なカウンターを貰うのだ。
辛うじて永井圭の攻撃が当たることもあったが、ほんのかすり傷程度。ウサギモンスターのHPバーは、たいして減少していない。
時にはラグ過ぎて永井圭が見ている場面が数秒前の場面だったりすることもある。
そんな時は、端から見てみると永井圭がいきなり何もないところに剣を振り下ろしているように見えたことだろう。
しかし、永井圭からすれば敵がチュートリアルキャラのくせに幻術を使ってきてるようにしか見えない。
こうして永井圭は、まさに死と隣り合わせの死闘を一匹の雑魚モンスターと演じる羽目になったのだった。
「おつかれ~。いや~ずいぶん苦戦したみたいだね」
ようやくの思いでウサギモンスターを倒した永井圭に、同じように初心者装備を纏った女性プレイヤーが話しかけてきた。
「あぁ、まさかこんな強敵がチュートリアルから出てくるとはな……」
「えぇー……。さっきの、たぶんこのゲームで一番弱い奴だよ?」
「マジかよ」
本気で驚愕してる永井圭を見て、女性プレイヤーが呆れたようにため息を吐く。
「君、超弱っちいみたいだし、私がチュートリアル手伝ってあげよーか?」
「悪いが俺はソロだ。――それにチュートリアルなら今終わった。アンタも見てただろう?」
永井圭はアバターのモデルとなったキャラに成り切って、女性プレイヤーの提案を拒否する。
ロールプレイ中の本人からすればカッコイイつもりなのかもしれないが、最弱のウサギモンスターとの死闘を見た後では流石に苦笑いしか出てこない。
「あー、言いずらいけど、まだ終わってないよチュートリアル。少し進んだらまた戦闘があるの。さっきの戦闘でレベルが上がったでしょう?その時に覚えたスキルについてのチュートリアルがあるんだよ」
「マジかよ……。あ、ほんとだスキル覚えてる。……って、そういえば何で次があるなんてわかったんだ?」
「ん?だってアタシはもうそれやって来たもん。ここに居るのは君が気になったからだよ」
「つ、つえ~」
「いやいや、逆逆!君が弱いの。というか、ずっと気になってたけど君の動き、なんでそんなにカクカクしてるのさ」
ずっと永井圭の戦闘シーンを見ていたらしい女性プレイヤーは、やはりそれについて質問を投げかけてくる。
永井圭は、仕方なく自分の住居のネット環境の悪さを説明した。
「へぇ~、このご時世でまだそんな場所が存在するんだねぇ」
まるで、原始人を見つけたかのような反応だった。
当然の反応である。なんせ今時は、月面でだってもっとましなネット環境してるのだから。
「まぁいい。ヤラなければいけないならヤルまでだ」
「あ~、うん。頑張ってね」
というわけで、チュートリアル通りに進んだ場所でエンカウントした相手は、先程も対戦した最弱のウサギモンスター二体であった。
永井圭は、戦闘が始まると当たり前のようにラグで動きが固まり、その間に二体がかりでボコボコにされ、スキル発動の予兆すら行えずに初期リス地点まで送り返されるという散々な結果を迎えた。
それから十回におよぶ挑戦を経て、ようやく永井圭はこのチュートリアルを突破したのだった。
まったく、チュートリアルでここまで苦戦する存在も珍しいだろう。
ちなみに、ここまで来るのに掛かった時間は、およそ3時間ほどである。
さて、ようやくの思いで街の門までたどり着いた永井圭は、ずっと存在は認識していたのに一向に近づくことが出来なかった城門を見て、達成感に浸っていた。
「やっと……やっと着いた……」
噛みしめるようにそう呟いて、いざ門をくぐろうとしたまさにその時、突如永井圭の視界が赤く染まり、目の前に表示されたのは、すっかり見慣れてしまった死亡を示すログの表示。
気が付けば永井圭は、訳も分からぬままに初期リス地点に立っていた。
「……クソが!こんなゲーム二度とやらんっ!」
しばらく呆然と立ち尽くし、ようやっと理解が追い付いた永井圭は、怒りをぶつけるように腰に差していた剣を地面に叩きつけてログアウトした。
皮肉にも、その時の永井圭のネット回線は、このゲームを始めてから一番の好パフォーマンスを記録していたそうな。
後日、永井圭は専用のゲーム機と一緒にこのゲームを父に送り付けた。
父は大層喜び、それから永井圭への仕送りは少し色が付くようになったとさ。
――――――
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なんも書くことねーよって人は、最近カクヨムで読んだオススメの小説でも書いとけ。
クッソラグい! アルティ・メット @ultimate2424
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