雨降る心と陰った瞳
雪。
始
外は雨
しとしとと降り注ぐ雨は重たい空気をアスファルトに叩きつけ
気怠い朝を切り取る窓は、薄暗い心を加速させる
2倍にも3倍にも感じる重力を押し退けて、薄目を開けながら身体を起こす。
時刻は午前6時。
世間は一日の始まりに備え、人によっては当たり前をこなす為に動き始めていた。
鏡にうつった顔はまるで、今の空模様のように虚ろに陰っていて
洗面台を流れる水の音が、今日という日の限られた1秒と共に排水溝へと飲み込まれていく。
そんな鏡にうつった空模様を洗い流し、憂鬱とは裏腹に弾んだ髪の毛に櫛を入れて、キッチンへと向かう。
スリッパを履かずに歩く床の冷たさに、寂しさを覚えつつ冷蔵庫のコーヒーを取り出すと、マグカップに注ぎテレビをつけた。朝の情報番組が、最近の出来事を話し始める。
中学生が自殺、芸能人の不倫、政治家の汚職、、、
おそらく自らの人生に全く無関係な内容を、さも世間共通の問題のように
コメンテーターとは名ばかりのタレントが口をとがらせて口上を述べる様を横目に、シャツに袖を通した。
生きていく上で大切なものとはなんだろうか。
そんな質問をぶつければ人それぞれ答えは違うだろうが、必要なものとはなんだろうかと問われれば、必ず皆が必要と答えるであろうもの。
それを得るためだけに、家を出た。
傘を叩く音、車のエンジン音、遠くで聴こえる救急車のサイレン。
それら全てが、自分を否定し嘲笑っているように感じる。生きていては行けないのだとまくし立てられている気がしてしまう。
それらの声から耳を塞ごうと、絡まったイヤホンをほどく。
傘を持ったままでは、いやに時間がかかってしまう。
やっとの思いでイヤホンを耳に当て、お気に入りの音楽で鼓膜を満たそうと、スマホの画面を見た。
画面をタップする刹那、弱々しい泣き声が聞こえた気がした。
今にも消え入りそうな、それでいて、生きる事に執着しているような、諦めているような、助けを求めているような
何故か無視する事の出来ない泣き声が、まだ音を流していないイヤホン越しに微かに、しかし確かに
心と鼓膜を、揺らしているのだ。
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