【KAC20217】こいつの邪魔が入るのは想定内だ。どっちみち21回分の【世界を変える物《ワールドブレイカー》】を破壊するにあたって戦う事が必要だと思っていた

@dekai3

任せたぞ、高橋!

「なあ、五十島。車内の冷房もっと強くしてくれよ」

『うるせぇ! 今はそれどころじゃないだろ!!』

《まあまあ五十島くん、高橋君には私が霊障で寒くしてあげるからさ。ハハハ、霊障で冷笑なんつって!》

[まもなく都市部第三外壁です。ロボトピアからの砲撃は当たらないでしょうが、レジスタンスの車両の巻き込みに注意してください]


ハッハー!! ニゲルヤツハオウゼー!! クラエー!! バクドウサクダー!!!


 俺達が乗る装甲車の前に飛び出た二輪のバイクがお互いに小型爆弾の付いたロープの端を持ち、そのまま後退して車両に貼り付けようとしてくる。


『うおっ! 危ねっ!? 爆導索ってそうやって使うもんじゃないだろ!!』


ギギギギ ブツンッ!!


 俺はそれを車両前方に取り付けたバズソーを機動して切断する。こんな事もあろうかと思って取り付けたのが功を制した様だ。


ウオッ? ドガンドガーン!!


 二輪のバイクは切断でロープの張りが無くなった事でそれぞれ左右に転倒し、爆導索についていた爆弾もろとも自爆した。





◆ ◆ ◆



[21回。それが五十島さんに納品して頂いた【世界を変える物ワールドブレイカー】によって歪められた歴史の数です]


 イトさんの妄想日記を元にした有志達による世界の改変で俺や世界がこうなってしまったという告白を聞いた後、話が壮大すぎるのと結局それでここからどうしたらいいのか分からずに途方に暮れていた俺達だが、当の妄想日記の作者であるイトさんから[世界を元通りにしましょう]という提案が出された。

 それは、有志達が俺に依頼した制作物である、【世界を変える物ワールドブレイカー】とかいう御大層な物を破壊するという物だった。

 詳しくは分からないが、世界の技術力が急速に上がったり、大衆の論理が変わったり、AIが人を支配しだしたりしたのはその【世界を変える物ワールドブレイカー】の影響であるらしく、俺が納品し続けていた物は【世界を変える物ワールドブレイカー】の根本を成す重要なシステムだったらしい。変な物ばっかり作らされているなとは思っていたが、それ単体で運用するんじゃなくて他の物と組み合わせて動かす物だったんだな。そりゃプロジェクトの一部だけを任されていたんじゃ全体の把握は出来ないわ。

 という事で、イトさんが山本さんにも秘密裏にこのオフィズビルの地下に隠していた大量の戦車やら新幹線やらの旧世代のスクラップを利用して装甲車を組み上げ、【世界を変える物ワールドブレイカー】が保管されているロボトピアの中枢へ向かっている最中なのだ。

 それも俺達だけで向かうのではなく、少しでもロボトピアの戦力を消耗させる為にレジスタンス達に俺がロボトピアへ帰ろうとしているという情報を流して、こうして来た時と同じ様にバギーやらバイクやらに追っかけられながらロボトピアへと向かっている。

 ちなみにロボトピアにとって俺は神の子みたいな扱いらしく、イトさんは預言者、そして高橋は俺に迷惑をかけまくっていた悪魔という事でS級犯罪人らしい。山本さんに付いては不明。まあ、幽霊だし、全裸だし。




「うわー、えっぐい。あれ保険効くのかな?」

《最近の若者は車両保険の対物も対人も付けないからのぅ》

『イトさん! 道はこのままでいいのか!!?』

[想定よりレジスタンスを多く引き付けてしまいました。D-8のルートに変更しましょう]

『地下街を走るルートか…ちょっと狭いけどやってやらぁ!』


フタリノカタキダー!! マテー!!


 仲間を殺された事でか、先程よりも大声を張り上げて俺達を追いかけて来るレジスタンス達。

 元から俺を殺すつもりで追っかけているので仇もなにも今更なのだが、彼らは知能が結構低そうな見た目をしているのでその場のノリと勢いで生きているだけで深くは考えて発言していないだろう。まあ、その場のノリと勢いでこんな体にした自分が言うのもなんだけど。


[ロボトピアからの砲撃、来ます]


ヒュー ドウンドウンドウンゥ!! ギャー グエー ズモー


 都市外部からロボトピアへと近づいた事で俺達の存在が発見されたらしく、これまた来た時と同じように陸上戦艦から砲撃が打ち出され、それにより俺達が駆る車両の周りに居たレジスタンス達が吹っ飛ぶ。

 来た時は気付かなかったが、確かに砲撃は全て直撃コースではなく道を破壊して俺達を止めるような着弾点を選んでいる。ロボトピアが俺を殺したくないと言うイトさんの話は確かな物なのだろう。

 直接狙われていないのだと分かれば走行ルートを絞る事は簡単だ。向こうは足止めを目的としているのだから、建造物の立ち並ぶ細い道を走るよりも建造物の無い広い道を走った方が道を塞がれる心配がない。それに、わざとレジスタンス達を引き連れているのだから目立つ道の方が都合が良い。走りながらも他のレジスタンスに見つかる事で、俺の迎撃やロボトピアからの攻撃で数が減った側からレジスタンスが補充されているのだ。まあ、こんなに都市周辺にレジスタンスが潜伏しているとは思わなかったから想定よりも多くのレジスタンスに追っかけられているが、ここから先の地下街エリアで丁度よい具合に数を減らさせてもらおう。


「山本さん、それロン」

《くあー、高橋くんそれは無いってー》

『地下に潜るから大きく揺れるぞ! しっかり捕まってろ!!』


シュゴッ ゴォォォォ ドゴォォォン!!!


 やれる事が無いからってこんな時に呑気にスマホで麻雀をしている二人に一応声をかけ、装甲車上部に取り付けた即席のお手製ミサイルを前方地面へと発射させる。

 ミサイルは今は封鎖されている旧地下街の展示場の真上に着弾して大穴を開け、俺は速度そのままで装甲車を穴の中に突撃させる。


ガンッ! ドンッ! ギギギギィィ!!!


 着地の衝撃で大きく跳ね、狭い地下街の通路を削り取りながらも着地は成功し、半ば廃墟と化している地下街を最高速のまま突き抜ける。


マテマテー!! マックラジャネーカー!!!


 レジスタンス達も何名かは穴に飛び込んで追いかけてきているが、流石に大型車両や逆に小さすぎるバイクなんかは飛び込むのを躊躇っている様だ。地上で追いかけられている時は小規模な津波レベルだった車両の群れが十数台まで減っている。

 地上に残った組にはここからロボトピアの注意を引き付けて貰う予定でいる。俺を殺しに来ているんだから俺に利用されても文句は言えないよな。それに、この穴がロボトピアへと繋がっていると分かれば徐々に穴の中に入って侵攻していくだろう。そうすれば今回の作戦が失敗したとしても俺達が逃げる為の隠れ蓑ぐらいにはなってくれるはずだ。元から失敗するつもりは無いが、こういう安全策はいくつか用意しておいた方がいいからな。


[ルート前方にマップに無い壁がある模様。おそらく埋め立てられた時の物だと思われます。どうしますか?]


 敷き詰められたタイルや閉じられたテナントのシャッターを吹き飛ばしながら進むと、少ししてイトさんから壁があるとの注意が来る。新造された壁だとしたら厚さや素材が不明なので、ここは破壊するよりも迂回だな。


『更に潜って地下鉄の路線を使おう。床の薄い箇所は?』

[前方右側の階段を破壊してください]

『よっしゃ!!』


ウィーン ガチャン ズビュビュビュビュビュビュビュ!!


 イトさんからの返答があると同時に装甲車側部のパネルを開けてチェーンガンを起動し、指示された登り階段に向けて弾丸を発射する。500年以上前に建造された地下街のコンクリートなので、まるでクッキーを砕くかのように削り取られて大きな穴が開く。


「山本さん、これ続き無いの?」

《ワシも300年待っておるんじゃが作者が連載そっちのけでオンラインゲームしておってのぅ…》

「マジかー」

『大きく揺れるぞ!!!』


 多分大丈夫なんだろうが念の為に高橋と山本さんに注意を促し、装甲車の前方に螺旋状の重力場を形成しながらボロボロになった階段へと突っ込む。


ドガァーーーン!!! キキィィーーー!!!


 その先は予想通り地下鉄の路線になっており、丁度斜め上から合流する形で線路の上に着地する。

 辺りは真っ暗だが、このまま真っすぐ進めばデータ通りならロボトピアの中枢近くまで抜けれるだろう。運よくショートカットが出来そうな気配だ。一旦装甲車の向きを線路に合わせる為に切り返し、壁に当たらない様に速度に注意しながら進む。


線路の上を走るこういうのって、男の子は好きだよな~』

「いやお前、男の子ってレベルじゃないでしょ」


 流石にレジスタンスの追跡も無くなったので安心して軽口を叩くと、高橋がそれに反応してツッコミを入れてきた。

 確かに球状のコアユニットに触手みたいなアームが複数生えた物体は男の子じゃないだろうが、誰しも心に思春期に男の子を抱えている物なので見逃して貰いたい。いいじゃん、男の子じゃなくても男の子の心を持っていても。そういうのジェンダー差別とか言うんだぞ?


「あ、五十島、停めろ!!」



バァァァン!!!


『うわっ、なんだ!!?』

[ぜ、前方からエネルギー攻撃…]


 と、安心しきった所に高橋の静止の声がかかり、俺がそれに反応する前に装甲車の車体を衝撃が襲った。


「《オリジナル》とS級犯罪人高橋の存在を確認。これより拘束を行います」


 そこに居たのは俺の部屋にも表れた俺の元の姿に似ているロボット的な何か。今ならわかる。あれがイトさんの考えた全てを極めし大魔導師にて悠久の時を生きる神話の担い手シーマ・クインタプル】なのだろう。CV:グリリバだし。

 まさかこのルートがバレているとは意外だったが、こいつの邪魔が入るのは想定内だ。どっちみち21回分の【世界を変える物ワールドブレイカー】を破壊するにあたって戦う事が必要だと思っていた。


「じゃあ、ここは俺の出番って訳だな」


 高橋はそう言いながら装甲車から降り、戦いの準備を始める。

 高橋の役割は俺達が【世界を変える物ワールドブレイカー】を破壊するまでの間のパニッシャーの足止めだ。ここはお前が頼りなんだ。任せたぞ、高橋!

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