SNSでいつも仲良くしていた読者がいなくなるの嫌だからオフ会を持ちかけたら恋人になった話。後編


 ミカゲさんはモジモジしながら私の作品の感想を述べてくれた。 

「私……あの、輪舞パーリィさんの作品読んでいつも濡れてました……」

「わ、私も! ミカゲさんの感想レビュー読んで濡れてました!」

「えええ!? あ、あああありがとうございます……。でも、感想レビューですよ!?」

「読んで、どこで悶えたとか書いてあったりすると、その、私の作品で……その……してくれてるのかな……って想像して……」

 お互い謎の告白合戦で顔が真っ赤だ。

「ええ。実は濡れてるだけじゃなく、パーリィさんの作品で致しておりました……」

「わあ、本当ですか! 嬉しいです!」

 これは作者として言われて最上級の賛辞ではないだろうか。

「私の性的嗜好を全て満たしてくれる作品となかなか廻り会うことがなく、偶然見つけたのがパーリィさんの作品でした。SM獣姦ふたなりリョナ失禁……これら全てを満たした小説作品でしかも純愛百合というジャンルで私に合ったものが中々無くて……」

 見に余る絶賛に私は、もう眩暈すら覚えていた。

 押し寄せる感激で声に吐息と潤みも帯てくる。

「ネットという広大な海で私の作品を見つけて頂けて光栄であります」

「私『性獣王サディスティック・ウルフ 涙の発情編』がとくに好きです。他の女に流されて一発ヤってしまったネコミにタチネが憤り、拷問に近いSMプレイから始まって、実は狼族の末裔だったタチネが男性器付き狼になって、獣姦。さらに、野生化が加速してネコミの肩を噛みちぎり、痛みのあまりに失禁したネコミのおしっこの匂いを嗅いで正気に戻ったタチネが涙を流して咆哮する描写でその……イってしまいました……」

 そのシーンを思い出しながらミカゲさんは口元を手で覆い涙を流している。

 目の前でそこまでの反応をされると、こっちも書いたかいがあるというものだ。

「あれは私もお気に入りの作品です。私も書きながら濡れてしまいましから」

「え、じゃあ、ひょっとして」

「右手でキーボードを打ち、左手で致しておりました」

「さすがパーリィ先生! とても器用ですね! ところでサディスティック・ウルフのアイディアはどこから?」

「友達のペットのシベリアンハスキーに襲われたときを思い出しながら書きましたね」

「友達のペットのシベリアンハスキーと獣姦を!?」

「はは。違います」

 私は笑いながら真顔で答えた。

「あの犬、私が来た途端に私を押し倒してハッハッと腰振ってただけです。 ズボン穿いてましたから大事なかったです」

「惜しかったですね……」

「惜しくないです」

 ミカゲさんは少し変わったお人だ。おもしれー女。

 ミカゲさんは何やらモジモジし始めた。おしっこかな。

 そういえばミカゲさんは失禁フェチでもあったな。

「あの……パーリィさん。私、濡れてきてしまいました……」

「なんと!」

「その、しませんか?」

「すると言うのは……」

「もう! 決まってるじゃないですか!」

「ミカゲさん! これはオフパコじゃないんです! 健全な交流!」

「健全ならホテルを選ばないでください!」

 ミカゲさんは私に抱き着いてきた。

「私をパーリィさんの小説みたいにしてください……! 道具は自前のありますから!」

「なんでオフ会に持ってきてるんですか!?」

「だってラブホってことはそういうことすると思うじゃないですか!」

「ラブホにしたのは完全防音と二人っきりで邪魔されずにお話をするためです!」

「ならカラオケでも良かったじゃないですか!」

「あ、そうか!」

「もう遅いですよ……抱いてください……」

 私はとんでもないことをしでかしていたようだ。

 どうせ自分の片思いだしという諦めで深いことをまったく考えていなかったのと自分の心のどこかで女同士だしという油断があったかもしれない。

 こんなにも自分が思われていたとは思わなかった。

 作家とファンとしての関係であるまじき行為。

 これは禁断の恋。

 禁断の両想い。

 あ、なんか今、小説のアイディア思い付いた。

 いや、そんなことよりもまず目の前の状況だ。

「ミカゲさん!」

「はい!」

「先にシャワー浴びましょう!」

「一緒にですか!」

「いえ! 一人ずつ清めましょう!」

「一緒じゃ……ダメですか?」

「ダメじゃなくもなくもないんですけど理性的な問題というか」

「わわわかりました! 理性的問題なんですね!」

「ということでお先にシャワーを浴びて下さい」

「はい!」

 シャワーを浴びに行ったミカゲさんを尻目に自分は何をしているんだと自問自答した。

 これはいけないことなのか?

 ミカゲさんのことまだ知らないの早くもこんな展開になっていいのか。

 ああ。頭が回らない。こんなときアンパンがあれば。

 どうでもいいことだが、私は創作のお供には常にアンパンを食べている勇気と性欲がもりもり湧くからだ。

 シャワーの音が聴こえてきたときシャワー室が透け透けであることに気付いた。

 イカン! ラブホガラス特有のマジックミラーだ! これはミカゲさんに教えねば!

 私はマジックミラーの透け透けシャワー室に向かってマジックミラーが透け透けであることをジェスチャーで伝えた。

 マジックミラーはスイッチ一つで透け透けから見えなくなるのだ。

 ミカゲさん、シャワーに浴びるのに夢中で全く気付かない!

 く、どうしたら……って私がスイッチ入れてあげればいいか。

 さっきのジェスチャーの無意味さよ。

 スイッチを入れてミカゲさんが見えなくなったと思ったら裸のミカゲさんが目の前にいた。

 裸のミカゲさんが私に言った。

「……もう。わざと見せてたんですよ?」

「え、マジ?」

 ムードの無い返事をしてしまった。

 情けないぞ、私。それでも文章を書く人間か。

「でもジェスチャー面白かったです」

「もー、知ってたなら言えよなー、このぉ♪」

 軽く小突くポーズを取る。

 こういう時は。おどけてみせるのが宜しかろう。

 もはやテンションが迷子である。

 今度は私が裸になってシャワー浴びつつ、今更ながらに自分の肉周りを気にする。

 ……うーん。ぷにぷにする。

 ミカゲさんも極端にスタイル良いわけではないが無駄がない体型をしている。

 私の肉と合体したらバランスが取れるのではないか。

 ひょっとして実物の私を見たミカゲさんは明るくふるまっているが内心はガッカリしてるのではないか。

 私の小説に出てくる高身長、高収入、高学歴美女を期待していたのではないか。

 ミカゲさんの容姿は私の推理力をもってすれば事前に予想することはできたが、そう考えてると不安になり、思わず背中に摩擦火傷が起きるんじゃないかと思うほど垢すりで洗った。

 背中が痛い。

 バスローブを着て出るとミカゲさんは何やら読んでいた。

 本当に読書が好きな人なんだな……と思って見たら……。

「ミカゲさん……それは?」 

「輪舞パーリィ先生作品集です!」

「うお! あの幻の! ウチに百部くらい余ってるやつ! 持ってる人初めて見た!」

「良ければサインください!」

「サササイン!? でもペンがない!」

「あります!」

「ミカゲさん、かたじけない!」

 サインを書いたことがなかった私は、ネームプレートのように『輪舞パーリィ』と書いた。

 恥ずかしい。名前をもう少し考えるべきだったかとも思ったが喜んでいるミカゲさんを見ると結果オーライとも思えるものだ。

「一生、宝物にします!」

 自分のサインでここまで言われたことがないから嬉しいというより奇妙な感じである。

 私を好きでいてくれる人がここにいたんだ。

 思わず鼻をすすった。

 ミカゲさんはまたモジモジして鞄から何やら取り出してきた。

「パーリィ先生! ぜひ、これもお願いします!」

「こ、これは!?」

 ハチマキと極太ディルド二本、電マ二本を渡された。

「あの『三十人イカせ村のイカセ』の恰好をぜひ、パーリィ先生に!」

「え! あれは私が輪舞パーリィを名乗る以前の作品で、もはや黒歴史の、ペンネーム『法無死苦ほうむしっく』時代の作品! わ、わかりました!」

 彼女ミカゲさんの喜ぶ顔が見たくて、私は早速やってみた。

 三十人イカせ村。

 どうかしてしまったイカセという女が裸の上にバスローブで頭にハチマキを巻、そのハチマキの両サイドに極太ディルドを挟み、両手には極太ロング両頭電マを持って村の女を三十人イカセるという怪奇小説だ。 

 自分の作品のコスプレを自分がするとは思わなかった。

 コスプレは簡単だった。もはやコスプレですらない。

「すごい! イメージ通りです!」

「そ、そう?」

 喜んで鏡を見たら変質者がいた。

 頭にディルド、両手に電マというもはや妖怪である。

 自分で生み出したキャラとはいえ悪夢のようなビジュアルだった。

これを正直カッコイイと思っていた私は何だったんだ。

 自分は何をやっているんだと思い悩みかけたときミカゲさんに抱き着かれた。

 「ミカゲさん……?」 

「素敵……抱いて……」

「ミカゲさん……」

 今しかないと思い、私は思い切って聞いた。

「どうしてSNSをやめるなんてことを?」

 私に抱き着いたまま、顔を上げずに言った。

「私……作品はもちろんなんですけど、輪舞パーリィさんを好きになってしまったのです……」

「え……す、好きなのになぜ?」

「好きだからやめたいんです! だってこれ以上パーリィさんに惚れたら私が壊れてしまいそうで……」

 ははあ。それで彼女は最後の決心で私と会う約束してくれたのか。

「泣かないで、ミカゲさん。私も同じ気持ちです。貴女がSNSをやめると知ったとき、ショックで目の前が真っ暗になりました」

 ミカゲさんの腕に力がこもる。

 私は両手に持った電マをベッドに放り投げ、ミカゲさんを強く抱きしめた。

「好きな人に見てもらえないのはとてもツラいですから」

「パーリィさん……」 

「私もミカゲさんが好きなんです! 良きファンの方としてじゃなくて……人として……いえ、女性として……貴女が好きです」

 どちらからともなくキスをした。

 イカセ村のイカセのコスプレはいつの間にか私の身体から取り払われていて、ファンと作家でも輪舞パーリィとミカゲさんでもなく、二人の女同士として……。


               ◇

「今度するときはイカセ村のイカセでぜひ!」

「作者自らにコスプレさせようとするな!」

「じゃあ、サディスティック・ウルフのコスプレで!」

「もっと無理!」


 ホテルから出てきた私たちは入ってきたときよりも仲良くなっていた。

 何があったかはもちろん……。

 そして、あのオフ会から私達はリアルでの関係となり、今では同じ家に住み、私は作品を書き、ミカゲさんは今でも私の作品の感想を書いて下さっているのだ。

 どういう関係かご想像にお任せします。

 しますが、読者を落胆させるような内容ではありません。

 むしろ、ハッキリ書くと私が恥ずかしいので。

 御了承くださいね。

 だって、それはすごく気持ちいいことだから

                      

                        了

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SNSでいつも仲良くしていた読者がいなくなるの嫌だからオフ会を持ちかけたら恋人になった話。 シイカ @shiita

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