第26話 小梢の過去

しばらくベッドの中で放心状態でいたが、小梢は『シャワー浴びて来るね』といってベッドから抜け出し、灯りの方へ向かった。まるで小梢が光の中に消え入るような錯覚に陥る。


先ほどと同じように、ガチャガチャとユニットバスの扉が開いて閉まる音がして、やがてジャー、バシャバシャっと水がはじける音が部屋に響いた。


僕は、ベッドの中で天井を見つめながら、ある不安に襲われていた。


なぜ小梢は今日、僕との関係を進めたのだろうか?

いつも唐突で、謎めいた行動をする小梢が、次に何をするのか?


それが、僕にとって良い事になるのか悪い事になるのか、高確率で悪い事のような気がしてならなかった。

先ほどまでとは別のドキドキが始まる。


「お待たせ」


程なくして小梢は、浴室から出てきた。当たり前だが、服を着ている。


「僕も、シャワー浴びてこようかな」


「うん……、圭君、あとで話があるの」



(やっぱり、きた!)



僕の予感は的中する。小梢からは良くない事しか話してもらえない気がした。


「分かった。とりあえず、シャワー浴びてくる」


僕は、逸る気持ちを抑えつつユニットバスの扉を開閉し、熱いシャワーを浴びる。

気持ちを落ち着かせ、部屋に戻ると照明が灯されていて、小梢が正座して待っていた。



僕も正座して小梢と向かい合う。

小梢は僕を真っすぐに見据えると、バッグから封筒を取り出し、僕に手渡した。


「これは?」


「圭君、わたしの故郷……、松江なの」


「へ?」


「圭君と同じ中学にいたのよ。圭君は1年で転校したけど、わたしはそこの卒業生」


「この封筒は何なの?」


封筒は随分と古いもののように見えた。


「読んでみて」


中には便箋が二枚入っていた。

僕は、それらを取り出し、広げてみる。



  『雪村小梢様』



文面が目に飛び込んできた。


僕は一瞬、小梢の表情を伺うが、小梢は真っすぐに僕を見据えたまま微動だにしない。


僕は、文面を読み進めるにつれ、手が震えてくるのを覚えた。





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