第15話 昔の記憶

トイレから戻ると、陽菜は勉強の準備を整えていた。


彼女は本当に利口な子だ。僕が教えることをどんどん吸収していく。この分なら志望校への合格は間違いないだろうと思った。


それにしても、他人に勉強を教えて、その成果が目に見えるって、なんてやりがいがあるのだろうかと実感する。


それと共に、僕は中学生の頃の出来事を思い出した。





中学一年の時、クラスにデブだブスだと男子に虐められていた子がいた。


もう名前も忘れてしまったけど……、その子は勉強もあまりできなくて、僕に負けず劣らず自己主張できない子だった。


あまりに虐めが酷いので、僕はせめて勉強でもできるようになればと、彼女に勉強を教えた。


僕にできることと言えば、そのくらいだったからだ。



ところが、実際に教えてみると彼女は飲み込みが早く、あっという間に成績を上げ、彼女を虐めていた男子よりもずっと上位になり……、とばっちりを受けた僕が虐めっ子から嫌がらせされるようになった。


その後、僕は親の仕事の都合で田舎――東京から一番遠い町――に引っ越したのを機に転校したので、彼女がその後どうなったのかは知らない。


思えば、あの時初めて僕は人に教えると言う事の楽しさを知ったのかもしれない。



(そう言えば、あの子、名前……、なんて言ったっけ? 思い出せない……)






「圭」


「圭」



「圭ってば!」


「ん?」


「何をボーっとしてるの? 明日のデートの事を考えてたんでしょ?」


ブー、と言った表情で陽菜が拗ねて見せる。彼女も本当に可愛い。おそらく高校生になれば他の学校の男子が放っておかないだろう。さらには女子大生になった時には……。


こんな可愛い子が僕の事を『好きだ』と言ってくれるなんて、少し前の僕に想像できただろうか?


「あ、ゴメン。ゴメン」



今は陽菜の勉強に集中するんだ。




そして、明日はいよいよ、人生初のデートだ。





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