第2話 怪しいサークル

小梢を見送り、僕は学食へと戻った。

彼女と話せたことで、僕は勇気をもつことができた。とにかく、どこか興味がもてそうなサークルを訪問してみようとキョロキョロする。



すると、不意に男子学生が声をかけてきた。

「君、1 年生?」



男子学生は、身長が185cmはあるだろうか? 170cmの僕より随分と大きい。足も長く、見たところそこそこのイケメンだ。それに、色黒で少し精悍でもある。


「僕は文学部の岸本、三年生です。良かったら、うちのサークルの話でも聞かない?」


「はあ、少しだけなら……」


「ありがとう、うちのブースには誰も来てくれなくて、こうやって新入生に声をかけて回っていたところなんだよ」


岸本の話からすると、よほどマイナーなサークルなのだろう。

そこで少し慣れてから他を回れば良い。岸本の後ろについていきながら僕は考えた。



「ここだよ」



岸本に案内されたブースは、明らかに他のサークルのブースよりも小規模で、ブースに設けられているパネルにサークル名も記入されていなかった。

しかも、岸本以外にサークルのメンバーもいない。



  怪しすぎる。



「あのう……、ここは何のサークルなんですか?」

あまりにも不審なので、僕は警戒しながら尋ねた。


「まあ、慌てないで。他のメンバーが勧誘から帰ってきてから纏めて説明するから」


なんとなく胡散臭い。早々に逃げた方が良さそうだと思ったが、岸本に先手を取られた。


「飲み物も食べ物もあるから、好きなのをつまんでよ」


ブースのテーブルには、ジュースや軽食類が盛られている。それらを適当に皿に盛り、岸本が手渡す。


「あ、ありがとうございます」


僕は仕方なく皿を受け取り料理を頬張った。


「君は、出身はどこなの? そういえば、名前も聞いてなかったね」


「僕は盛岡圭、出身は島根です。波津町という島根でも田舎の方の……、東京から一番遠いと言われているところです」


明らかに地方からの上京組だとバレているのが悔しかったが、田舎者なのだから仕方ない。自虐を込めて僕は答えた。


「へ~、山陰の方か。僕は鹿児島の出身。それも離島の出身で、僕も元は田舎ものさ」


なるほど、色黒なのは南方の出身だからか、と妙に納得するとともに僕は岸本に親近感を覚えた。


「じゃあ、君も同郷からは独りだけ入学してきたのかな。僕も島から独りぼっちで上京したので、入学時は寂しい思いをしたものだよ」


「岸本さんは直ぐに慣れましたか? 東京に」


「ああ、このサークルのおかげで楽しい学生生活を送っているよ。君も我がサークルへ入部すれば充実した学生生活が待っているさ」


これは良くある詐欺の常套句だ。僕に警戒感が戻る。

その時、一人の男子学生が戻ってきた。



「おお! 岸本。一人確保できたか、お手柄だぞ!」


「田沼さん、そっちはどうでしたか?」


「俺はダメだった。数人声を掛けたのだが、ことごとく逃げられてな。直ぐに警戒されてしまう。まあ、いつもの事だがな。

もうヤケクソになって女子にまで声を掛けてみたが、流石に相手にされなかったわ」


田沼と呼ばれた男子学生は、ガハハハッと笑いながら答えた。身長は僕よりも低く、ずんぐりした体形をしているが愛嬌のある可愛い目をしている。




「田沼さん、流石に女子は全然ダメっしょ。健全な感じはしないっすから、うちらのサークルは」

いつの間にか、男子学生がもう一人加わっていた。


「岡田、しかし我々もたまには若い女子と触れ合う事も大切だぞ。今後は女子の会員を加入させることも考えないとな。ところで、お前はどうだったのだ?」



岡田と呼ばれた男子学生と田沼のやり取りに、「不健全なのかよ!?」と思わずツッコミを入れたくなる。


岡田は、髪を茶色に染めてチャラい感じだ。さらにニキビ顔がチャラさをマシマシにしている。

歯も少し出っ歯気味で、売れないホスト、もしくは関西の面白くないお笑い芸人といった風貌だ。


そういえば少し関西訛りが入っている。


「俺もダメっす。近くまで連れてきたんだけど、逃げられちゃいました。

サークル名を言うと、どいつもこいつも顔を引き攣らせながら逃げて行くんっすよね」


「むうう~、去年も勧誘できた新入生はゼロ。このままではサークルの存続が危ういぞ」

田沼が悲壮感を漂わせながら嘆いた。


「田沼さん。とりあえず、岸本が連れてきた奴に何としても入部してもらいましょうよ」


「そうだな、まずは自己紹介するか。

俺は、田沼元気たぬまげんき、社会学部の 4 年生だ。出身は東京。このサークルの幹事でもある」


「俺は、岡田明哉おかだあきや、社会学部の 3 年生で出身は和歌山。サークルの副幹事をやっている。よろしくな」


「僕は、岸本亮介きしもとりょうすけ、文学部の 3 年生。出身はさっき話したとおり鹿児島。僕もサークルの副幹事だ」



岸本が紹介まで自己紹介を終えると、3 人の先輩たちの視線が一斉に僕へ向けられた。



これは……、とりあえず自己紹介するしかない。


「僕は、森岡圭、経済学部です。出身は島根です、よろしくお願いします」


と言ったものの、こんな胡散臭いサークルに入部する気なんて、僕にはさらさらない。「よろしく」なんて余計だと後悔する。


後悔したが、田沼は僕の両手を握りしめると可愛らしい目を輝かせながら首を縦に何度も振った。


「うん、うん、よくぞ我がサークルを選んでくれた。君は、幸運だぞ」


「あの、そもそも、このサークルって何のサークルなんですか?」

握られた手を振り解きながら尋ねる。




「おう! よくぞ聞いてくれた。

我がサークルは、『不倫研究会』という」





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