国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい~目指せスローライフ~

おとら@五シリーズ商業化

一章 マルス、追放される

プロローグ

 ……あれ?ここは?


 気がつくと、俺は真っ白な空間にいた。


 まるで某マンガの、精神と時のアレみたいな……。


「なんだ? ここは……?」


 落ち着け……まずは、自分のことだ。


「俺の名前は、佐々木健斗。年齢は35歳の社畜。孤児だから家族はいないし、恋人もいない……うん、あっている」


 次は、どうしてこんなところにいる?

 さっきまで……何をしていた?


「えっと、確か……そうだ」


 会社の帰り道に、階段から落ちてくる女の子を助けたんだ。

 そして……それ以降の意識がないってことは……まさか。


「……俺って——死んだのか?」


「ええ、そうですよ」


 振り向くと、白い羽を広げた美女がいた。


「……天使ってことは、天国に行けるのか?ほっ、良かった」


 ロクでもない人生だったが、天国に行けるなら悪くはない。


「ず、随分と落ち着いてますね?」


「最初は驚きましたけど……まあ、切り替えは早い方なので」


 じゃないと、やっていけないような人生だったし。

 孤児スタートで、不正受給をしてた施設で、虐待を受けて。

 高校も行けずに、中卒で働いて。

 いちいち気にしてたら、生きていけなかった。

 本当に……死ななかった自分を褒めてやりたいくらいだ。


「そ、そうですか。そういうレベルじゃないような……」


「それで、俺はどうすれば良いですかね?」


「えっと……まずは、貴方には選択権があります」


「地獄か天国かってことですか?」


「違いますよ!……コホン!貴方は、1人の少女を助けましたね?」


「ええ、まあ……」


「彼女は、いずれ世界を救う女の子なのです」


「はい?」


「貴方のいた世界とは違う世界があります。名前は、ユグドラシル。彼女はいずれユグドラシルを救うために、貴方のいた世界から召喚されるはずだったのです」


 よく見る異世界ファンタジーみたいなことか?


「はあ、それがどうしたのですか?」


「ど、動じませんね……ですが、そうはさせまいとユグドラシルに封印されている邪神が動きました……まあ、詳しい説明は貴方には必要ないですね。とりあえず、その邪神が私の隙をついて、彼女を殺そうとしたのです」


「へえー」


 そんな小説みたいなことってあるんだな。

 まあ、俺には関係ないけど。


「軽い! 世界の命運がかかってるのに!」


「そんなこと言われても……もう若くないですし」


「もういいです! そ、それで、貴方にはお礼として、異世界転生の選択権を差し上げます」


「……はい?」


「ユグドラシルに転生できるってことです」


「じゃあ、それで」


「うんうん、わかりますよ、いきなり言われ……え?」


「転生でお願いします」


「え!?もっとこう……異世界転生!? ヒャッハー! とか! キタァァ——!!とかないんですか!?」


「自分、おっさんなんで」


 とりあえず、平和に暮らせたら良い。

 次こそは、静かにのんびりと生きたい。


「今までとは違いますね……」


「他にもいたんですか?」


「ええ、貴方のような方が。その人達は知識チートや俺つえー、ハーレムやざまぁなど……好き勝手にやってましたね。まあ、それだけなら別に良いんですけど……」


 最近の流行りのオンパレードだな。


「まあ、気持ちはわかりますよ」


 俺も会社の上司や、俺を捨てた親にざまぁしたいし。


「そうですよね!ただ、酷い方だとやたらめったらに大量虐殺をしたり……それは流石に困るのです。人間は我々の眷属なので」


「ふんふん、なるほど。好き勝手にも限度があると」


「ええ、その通りです。ちなみに魔物は邪神の手先なので、殺しても構いません。というわけで、貴方にもチートを授けますが……人を無闇に殺した場合、チートが剥奪されます」


「その基準はなんですか? 例えば、正当防衛とか」


「良い質問ですねっ! それならば不問とします。あとは、あちらの世界で犯罪者と呼ばれている人達も許可します。もちろん、嬉々として殺すのもどうかと思いますけど」


「なるほど。つまりは、むやみやたらに殺すなってことですね」


「ええ、全員私の世界の住民ですからね。先ほど言ったように、過去にそういった方々がいたので……正当防衛は仕方ないですし、無為に殺したりしなければ良いです」


「わかりました、それで良いですよ。別に人殺しになりないわけでも、英雄になりたいわけでもないですから」


「ほっ……良かったです。では、転生の門をくぐってください」


 そう言うと、目の前に扉が現れる。


「えっと……」


「何か質問ですか?」


「赤ん坊からですかね?」


 さすがにいい年したおっさんで、赤ん坊からはきつい。


「そうですよね……えっと……何才くらいが良いですか?」


「選べるんですか?」


「ええ、一応。貴方の魂の記憶が蘇る年齢を設定するだけなので」


「なるほど……俺自身の魂で生まれて、歳をとると蘇ると……15才ですかね」


 それくらいなら、ある程度のことはできるだろう。


「わかりました……一応、それなりに良いところに転生させますからね。では、いってらっしゃい。良き異世界転生を」


「ええ、行ってきます。ありがとうございました。次こそは、平穏無事な生活を送りたいと思います」


 俺が門をくぐると、光の本流に包まれる……。


 ああ……次こそは……きちんと寝られて、ゆっくりと飯が食える人生を……。


そう……スローライフを送りたい。


 そう願ったところで、俺の意識は消え去った……。

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