異世界召喚されたらチ〇コ盗られた ~貴族のお嬢様と結婚? そんなことより僕のムスコを返してください!!~

ななよ廻る

第1話 人質はムスコ


「君のムスコは預かった。返して欲しくば、私の三人の娘たちから妻を選び、結婚しなさい」

「………………………………………………………………………………………………はい?」


 気が付いたら、紳士のような恰好をした老人に、そんな突拍子もないことを告げられました。

 周囲を見渡せば、そこは知らない場所。

 どこかの洋館なのでしょうか。日本では見た事のない洋風なインテリアが飾られていました。ぼーっとした頭。昨日、部屋のベッドで寝てからの記憶はありません。

 どうしてこのような場所にいるのか。眠ったままの頭で必死に考えますが、答えはでてきませんでした。

 僕が呆けているのに気が付いたのでしょうか。白くなっている髪が良く似合う老紳士がゆっくりと話してくれます。


「ふむ。そうだな。君、名前はなんと言ったかね?」

早瀬はやせ……瑞樹みずきです」

「そうか。瑞樹君だな。とりあえず、股間に手を当ててみなさい」

「……はあ」


 わけもわからないまま、言われるがままに僕は股間に手を伸ばします。

 当然、そこには新品ながらも謙虚な僕の大事なムスコが……………………ない?

 さすります。

 ありません。

 叩きます。

 皆無です。

 寝る前まで存在していた、未使用ながらも僕の分身である大事なムスコがなくなっていました。

 ……(ポクポクポクチーン)


「――ふぁっ!? ななななんで僕のチンっ、いやや大事なモノがなくなってえっ!? 夢!? 夢ですよね!? そもそも一体ここはどこなんですか!? なにがどうしてどうなって僕のムスコがいなくなったんですかっ!?」

「ようやく目が覚めてくれたか。いやぁ、よかったよかった」

「なにもよくありませんけど!?」


 大らかに笑う老紳士。

 僕は笑い事ではありません。知らない場所に連れてこられて、大事なムスコはなくなって。

 夢なら早く覚めてくれないでしょうか。その辺に頭を打ち付ければ目も覚めるでしょうか。


「まあ、落ち着きたまえ。そして、私の最初の言葉を思い出したまえ」

「最初の……言葉?」


 そう言われた僕は、思い出そうと頭を抱えました。

 最初……なにを言われたのか。


『瑞樹君って、女の子よりもかわいいから痴漢にあってもしょうがないよ』


 ああ、違います。これは昨日、登校中の電車で痴漢にあった後、クラスメートの女の子に言われた言葉です。とても深く傷付き、僕の新たなトラウマとなっております。

 思い出さなくてはいけないのは心の傷トラウマではなく、老紳士が最初に口にしていた言葉です。


『君のムスコは預かった。返して欲しくば、私の三人の娘たちから妻を選び、結婚しなさい』


 なるほど。君のムスコは預かった。ムスコ? 預かった?

 なかなか理解が及びません。どういった意味なのでしょうか? 新たな言語? 英語ではなさそうですが……。

 そうして、脳内で解読をしていると、ようやく真実をつきとめました。

 なるほど。僕のムスコはこの老紳士が預かっているのですね。なくなっていないようで安心しました。僕はほっと息を吐きます。


「って、そんなわけありますかーー!! 僕のちちち、チ〇コを預かった!? どどどういうことですか!? というか、奪えるものではないでしょう!?」

「そうだな。君の世界では奪えないだろう。けれど、我々の世界では奪えるのだよ」


 君の世界。我々の世界。

 僕の混乱は更に加速します。まるで、世界がいくつもあるかのような言い方ではありませんか。物語の世界ではあるまいし、そのようなものが現実にあるわけがありません。

 だというのに、老紳士は僕にとっての非現実を、笑うことなく語ってきます。


「瑞樹君。君は、我々の世界に召喚されたのだ。世界の境界を渡り、君の居た世界から、こちらの世界へ」

「異世界に、召喚?」


 そんな馬鹿なと乾いた笑いが零れました。面白い冗談です。学校でなら笑いの渦が起こっていたことでしょう。

 けれど、同じように笑ってくれる人はおらず、老紳士はあくまで丁寧に言い聞かせてきます。まるで、物分かりの悪い子供を諭すように。


「そうだ。そして、君を召喚したのは私だ。瑞樹君を私の娘の誰かと結婚させるために呼び出した」

「娘さんと、結婚……」


 話が突拍子もありません。

 夢だというのならば、早く目覚めてほしいです。


「我々の家系は、異世界の血を取り入れることによって力を付けてきた。故に、娘たちの結婚相手は異世界人だと決まっていた。その栄誉に選ばれたのが瑞樹君、君なのだ」

「栄誉と言われましても……」


 突然、異世界に召喚されて、結婚だなんて言われても、できるはずがありません。


「困惑するのはよくわかる。君からすれば誘拐とさして変わらんことも理解している。嫌がる気持ちもあるだろう。だから私は――君のチ〇コを人質に取ったのだ」

「だからの繋げ方がおかしいーーーーーーっ!!」


 なにがだからなのでしょうか。全くもってだからではありません。

 謝罪の気持ちは欠片もなく、言うことを聞かせるために大切なモノを人質に取るとか悪党の思考です。しかも、ムスコを人質に取るなんて、ヤクザもビックリの所業です。


「なにもおかしいことはない。瑞樹君が嫌がるのは目に見えていた。そのための手を打った。それだけの話だ」

「なんて効率的な考え方! そもそもどうやってムスコを人質に取ったのですか!?」

「なに、初歩的な魔法だ。君の性別を転換させてもらった。喜べ、今日から君は女の子だ」

「おっぱいがあるーーっ!?」


 薄いながらも、なだらかな曲線が女性であることを告げています。

 思わず触ってしまいましたが、女性の胸に触れるのは初めてのことです。ドキドキするのと同時に、まさか初めてが自身の胸だとは思ってもいませんでした。神様もビックリです。


「なんで女性に!? そもそも、あなたの娘さんと結婚させるというお話だったのでは!? もしかして、こちらでは女性同士の結婚が一般的なのですか!? 世界観のギャップが激しい!」

「安心したまえ。こちらの世界でも、一般的に結婚は男と女がするものだ」

「それならどうしてですか!?」

「ふむ。君を性転換させた理由は二つある。一つ目は人質だ。瑞樹君を脅すためのものだね」

「清々しいほどに堂々と言いますね!」

「そして、もう一つは男女が一緒に暮らすための処置だ。いくら、将来結婚するとはいえ、いきなり若い男女が一緒に暮らすというのは、公序良俗に反する。貞操観念は大事だ。婚前交渉を私は許さない」


 どこまでいっても自分勝手な老人です。紳士なのは見た目だけで、中身はヤクザそのものでした。

 ……というか、今この人はおかしなことを口にしなかったでしょうか?


「今、一緒に暮らすと、仰いませんでしたか?」

「言ったとも。聞き間違えではないよ。これから瑞樹君には、私の娘たちと一つ屋根の下、一緒に暮らしてもらう。共に過ごす中で、生涯を共に過ごすパートナーを選んでもらいたい思っている。私も悪魔ではないからね。出会って五秒で即結婚などという身勝手なことは言わないとも」

「では、僕のムスコを返してください」

「それでは、これから私の娘たちを宜しく頼むよ、将来の息子よ」


 身勝手極まりない自称将来の父親は笑いながら去っていきました。

 そして、残されたのは僕と、三人の美少女たち。


「あはは、あはははは……」


 三者三様の眼差しで見つめられる中、僕は色々な出来事に耐え切れなくなって、夢よ覚めてと――床に頭を打ちつけました。


 これが、僕が異世界で暮らすようになった、全ての始まりでした。

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