まだそれは聞きたくなかった

鈴木KAZ

1.

「なんてことだ・・・」


黒沢タクミは公園のベンチにうずくまり、頭を抱えていた。

「はあ、オレの今までの人生はなんだったのか」


タクミの手に握られていたのは映画のチケットであった。


『スペースウォーズ9 〜帝国の真実〜』


言わずと知れたSF映画の代名詞『スペースウォーズ』シリーズの第9作目である。

タクミが人生で初めて映画館に連れていってもらったのがこのシリーズの1作目であった。テレビやビデオで見るそれとは違い、劇場の巨大スクリーンで繰り広げられる壮大な物語は、小学生のタクミにとってまるで夢の世界に足を踏み入れたかのような体験であったのだ。

その後、数年に一度の『スペースウォーズ』の新作公開は、タクミの人生にとって特別なイベントとなっていた。そして、このたび封切られた9作目をもって『スペースウォーズ』のストーリーは完結となる。それを見届ける30年余りのタクミの人生は、スペースウォーズとともに歩んできたとも言えるのであった。


「なぜ、、、なぜ映画の封切りは金曜日なんだ・・・? 」


映画の新作が公開されるにあたり、最も気をつけなければならないもの、それが「ネタバレ」である。まだ見ていない作品の内容を意図せず知ってしまう悲惨な事故のことだ。

スクリーンで観る映画の内容をあらかじめ知ってしまっていたら、驚きや感動は半減してしまうであろう。楽しみにしている作品であれば、なおさらである。

この事故を避けるために最も効果的なのは、ネタバレされる前に観てしまうことだ。そのためには映画公開初日に観るのが最も安全と言えるだろう。

しかし、誰が決めたのか、映画の初日はたいてい金曜日なのだ。社会人であるタクミは『スペースウォーズ』に合わせて休暇を取るくらいの覚悟であったが、あいにく今回だけはどうしてもはずせない会議が公開初日に重なってしまった。

「あのガキ・・・」

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