第23話 打倒魔王! この言葉に、嘘はねぇから…っ!
「はい、それじゃ今日は皆さんに、転校生を紹介します」
回想を終えた俺の耳に入ってくるのは、セクシー女教師(セクシー女優とは違うのだ)の声。
俺は言われたとおりに、教室の扉を開けた。
俺を見たクラスメイトの反応は、大きく二つに分かれた。
「なんだよ男かよー」
ボーイズは基本的に興味なさそうだった。
むしろ、転校生がガールでないことに、いささかがっかりしているようだった。
「あらん? いい男じゃない、ときめいちゃうわぁん」
そんななか、一人の少年のような少女のようなクラスメイトが言った。
なぜ俺がそいつのことを少年のような少女のようなクラスメイトと表現したかというと、だ。
マッチョで、上半身裸のメンズだったが、女子用制服のスカートを履いていたからだ。
(もちろん、メンズブラは着用している。
ピンク地に、かわいらしいフリルがあしらわれている。
また、驚いたことに乳首の部分がくりぬかれていた。
なんというファッションセンス。
おそらくこいつが、このクラス随一のファッションモンスターだろう)
だがしかし、冒険者ギルドのおっさんとキャラがかぶっているから、おそらく今後、こいつに出番はないだろう。
とりま、ボーイズの中には、俺に興味を持っている奴も、いるってこと(?)。
「やっば、めっちゃ美形……」
「ラッキー、超タイプー」
ガールズはもう、俺を見てうっきうっきである。
っべー、魔王これ……っべー、体もたねーぜ? ……っべー。
というわけで、何を隠そうこのクラスの者どもの視線が俺の股間に集まっている。
うっそぴょーん!!!!!!!
股間には集まっていない。
「それじゃ、自己紹介」
担任のセクシー女教師(繰り返して言うが、セクシー女優とは違うのだ)が俺に言った。
俺は静かに頷いてから、
「俺、魔王って言います。魔王打倒のため、勇者のみんなと一緒に切磋琢磨していければいいな、と思っています」
そう言うと、
「いよっ! 魔王打倒とは、いうじゃねぇか!」
「気に入ったぜ、よろしくな魔王!」
「この学校でわかんないことあったら、なんでも聞いてね、魔王君!」
好意的な言葉の数々。
ほっ、と一息つく。
いくら俺が魔王だからといえ、転校初日はさすがに緊張する。
だが、こうして受け入れてくれたのだから……まずは良かった。
と、考えている俺の耳に、一人のガールのボイスが届いた。
「あー! あんた、今朝の……!!」
一番後ろの窓側の席にいた人間が立ち上がり、俺に向かって指をさしている。
その人間は……勇子だ。
『今朝の……!!』も何も、普通に一緒に登校した間柄である。
そんなに驚くべきところではないのである。
しかし、その震える表情を見て、俺は察した。
つまりは……こういうことだろう?
「ん? ……あっ! お前、今朝の暴力女!? げぇー、同じクラスだったのかよ!」
そう。
お約束イベントである。
このイベントを踏まえることで、クラスに馴染むことが早くなる。
それを見越して、勇子は一芝居打ってくれた、というわけだ。
ならば俺も、エンターテイナーとして、応じないわけにはいかないのだ。
俺は頭を抱えながら「なんてこったよ、やれやれ……」と肩を竦めて見せた。
「っな……なにが、やれやれよ! それは、こっちのセリフなんだからっ!」
勇子が顔を真っ赤にして、俺に抗議の言葉を放った。
ふん、なかなかの役者だ。証拠に……
「何々? 勇子と転校生君って、もしかして知り合い?」
「てか、勇子がそんなに取り乱すのって珍しーね」
「もしかして……何かあったり?」
ギャラリーどもが何やら面白おかしそうに噂を始めた。
「別に、俺たちは何ともないって。ただ、そこの『いちごパンツ』女が、通学路でいきなり俺に喧嘩を売ってきてだな……」
「っな!! だ、誰がいちごパンツ女よ!!!」
俺は適当に言っただけなので、勇子が本当にいちごパンツか否かはわからない。
それにしても、素晴らしいリアクションだ。
本当にいちごパンツを履いていて、それを俺に見られて怒っているかのような迫力と、臨場感がある。
「15にもなっていちごパンツをはく女なんて、お前くらいのもんだろ?」
「も、もー! ホントッ、あんたっ……サイテー!!!!」
そう言って席に着いた勇子は、ぷりぷり怒って、そっぽを向いたのだった。
名女優になれる器を見たぜよ。
「へー、あんたたちって、仲が良かったのね。それじゃ、魔王は勇子の隣の席……は空いてないから、もう一つうしろに席を作って、そこに座ってもらうわ」
セクシーな担任の先生のセクシーな言葉に、
「「ええーー!!!?? そりゃないぜよー!!」」
俺と勇子の悲痛な叫びが重なる。
「そ、そりゃないぜ、先生! 今の俺とあのいちごパンツ「いちごパンツじゃなくて、勇子!」……勇子の間に、どれだけ深い因縁があるかなんて、わかるだろ!?」
「そうよ、先生! こんなパンツ覗き魔王がうしろにいたら、ブラスケを見られていないかが気になって、授業どころじゃなくなっちゃう!」
「はいはい、喧嘩するほど仲が良いってね! 魔王はまだこの学園に慣れていないんだ。あんたがしっかり、面倒見てやんな。な、委員長?」
「む、むう。そこで委員長を出すのは……卑怯よ」
と、言って、勇子委員長は抵抗をあきらめたようだ。
キーンコーンカーンコーン
そこで、ホームルーム終了のチャイムが鳴った。
「それじゃ一限始まるまでに、魔王は席用意しておけよー」
そう言って先生は出ていった。
途端、俺の周囲にできる人だかり
「なんだよお前、勇子と知り合いだったのかよ」
「勇子と付き合ってる、とかじゃないよね?」
「なんか怪しー」
「いや、そういうわけじゃないさ」
疑問、俺、答える。
「ふーん、じゃ、勇子とはほんとに何にもないんだ?」
「だからそう言っているだろうに…」
金髪碧眼、その上グラマラスボディな滅茶苦茶マブイ女スケに、俺は肩を竦めながら答えた。
するとその女(suke)は、上目遣いに俺に尋ねてきた。
「それならさ。……魔王君って今、彼女いるのかな?」
「あ、あんた抜け駆けっ……い、いないなら、私立候補―!」
「お、俺も立候補しちゃおっかなー!」
「なんであんたが? BLかよー」
おぎゃははははははー!
ドモス! ドモラス! ドモスケゴラスビョー!
……どぅるちち!!!
と、良い感じのアットホームな雰囲気の教室に、みんなの笑い声が満ちた。
これも、勇子が一芝居打ってくれたからだな。
俺はそう思った。
「おう、机動かしといたぜ、魔王!」
「ああ、ありがとう。助かったぜ」
クラスメイトが、机の移動までしてくれていた。
俺はお礼を言うと、周囲のギャラリーに断りを入れて、自席へと向かう。
「……たいそうおモテになることで」
前の席の勇子が、少しだけ妬いたのか、そんなことをつぶやいた。
「サンキュな、お前のおかげだ」
俺が言うと、
「……バーカ」
勇子はつまらなそうにそう言って。
少しだけ、口元を嬉しそうに歪めたのだった。
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