第11話 異世界転生の醍醐味

 さて、[地獄の三姫臣]に啖呵を切って人間の領土に来たが。


 こうしてみると、異世界転生したんだなぁと、つくづく思うのだ。




 中世ファンタジー風の町並み。


 町を歩くのは冒険者風の屈強な漢たち。


 そして至るところで走っているタクシー。


 スーツを着て携帯電話やスマホを弄る大人たち。




 うん、これこそが異世界転生って感じさ。




 魔人の奴隷のこと、調べなければいけない。


 どこで調べる? 決まっている。




「あら、見かけないお兄さんね? 当ギルドに、なにかご用かしら?」




「うむ。……そうだ。調べ物がしたくてな。調べ物と言えば、ギルドってのが相場が決まっているだろう?」




 俺は冒険者ギルドに来ていた。理由は今筋肉質の受付嬢に言った通りだ。……筋肉質な受付嬢?




 なんだそれ、可笑しいぞ。


 異世界転生物のギルドの受付嬢と言えば、美人が相場だ。


 だがこれは……流石におかしい。


 筋肉質というかマッチョだ。


 それに、毛深い。


 その上、頭部は禿げ散らかっている。




 そう、受付嬢はおっさんなのだ。


 もう一度言う。受付嬢はおっさんなのだ。


 さらに重ねてもう一度言うと、だ。受付嬢はおっさんなのだ。


 最後に、サービス。受付嬢はおっさんなのだ。


 最後と言ったが、あれは嘘だ。受付嬢はおっさんなのだ、イェイイェイ!




 おっさんおっさん♪ イェイイェイ!




 なぜおっさんを受付嬢と表現したかというと、だ。


 おっさんは可愛らしい受付の女性用の制服シャツとタイトスカート、そして女性言葉を使用していたからだ。




 まぁ、良いか。


 なぜなら、俺はジェンダーフリーを掲げる男。


 性別なんて、些細なこと。


 その人の心が女性であれば、見かけなんて関係ないのさ、アハン!




「そうね、情報は金。もしくはこちらが欲している情報と交換ができるわ。っと、その前に。ギルドに冒険者登録しなくてはダメよ」




「冒険者登録、か。知っている」




 俺のステータスがすごいことがばれて大騒ぎする奴だ。




「それじゃ、ちょこっと準備するから、お待ちなさい」




「はい」




~~数分後~~




「おいおい、まさかこの一帯最強の冒険者であり、ドラゴンスレイヤーでもあるジョリットがたったの一撃でやられるなんて」




「ジョリット・ワーキゲは口は悪く素行に問題はあったが、腕は確かだ」




「それを羽虫でも払うように倒すなんて、中々できることじゃないね」




「……決まりね。ジョリットを倒したという事は、ステータスカードの故障ではないわ。もう一度言うわ。魔王ちゃん。当ギルドは貴方に対してS級冒険者の資格を与えるわ」




「マジかよ、S級って、いきなりS級冒険者? 普通はあり得ないっての!」




「へ、どうやら俺たちは伝説の目撃者になっちまったってわけか」




 口々にギャラリーが俺をほめそやす。


 気分が良い。


 これが異世界転生の醍醐味だ。そして目の前で伸びている男、ジョリジョリの腋毛は粗大ゴミだ。


 あ、やべ、溢れるユーモア隠しきれんかったわー、つれーわー。




 そして、改めて説明することでもないが。これまでの流れを説明しよう。


 俺のステータスがバレ大騒ぎになったところ、チンピラの腋毛に絡まれてそれを一撃で倒し、俺の力を認めた屈強な冒険者から歓迎の嵐を受けていたのだ。




「ちなみに、だ。S級冒険者の特典として、情報を手に入れたりは出来るのか?」




「S級の冒険者と言えども、対価を払わなければ、基本的には情報を得ることはできない……けど。今日は特別。クラスのみんなには、内緒だよっ!」




 そう言っておっさんの受付嬢はウィンクしてきた。


 そして、魔人の奴隷がいつどこで売られるか、そして誰がその元締めかも教えてくれた。




「ありがとな、ねーさん。……ま、俺もタダで情報をもらってはいお終いじゃ、魔王の名が廃るってもんだ。……いいぜ、なんでも一つ、依頼を受けてやるよ。ただで」




「あら、ホント? 助かるわ。それじゃこれ行ってくれない?」




 そう言って、かなり軽い感じでクエストボードからこのギルドで最も危険度困難度共に最高難易度の地獄のようなクエストをおっさんから押し付けられた。




 やっすい情報一つでこの仕事って……割に合わなくね?




「……さっさと行ってくんないかしら?」




「あ、はい」




 俺はそのクエストを果たしに行くことになった。







「ふむ、貴様のような人間がいたとはな。名を、何という?」




 受注したクエストは、この目の前の怪物――全長10キロメートルの超巨大なドラゴン、[伝説の呪龍カースドラゴン】を愉快痛快面白おかしくぶっ殺すことだった(笑)




 当然、その龍はすでに俺がフルボッコしたため虫の息状態だ(笑)。




 クエストを受けてすぐに龍の元にきてだな。


 ボコボコにしたのだった。




「名を聞かせろ――我をここまで追い詰めた人間よ」




「あ、俺人間じゃないから。魔人だから。てか、魔王だから」




「……ふん、魔王様の名を騙るとは。我を愚弄する気か? 魔王様は太古の昔に永き眠りについたはずだ!」




「いや、別にそういうつもりじゃないけど。ま、信じてもらう必要もないか」




 俺はこのでっかいウナギみたいな龍を痛めつける技を発動する




「うおおおおおおおおおおお!!! 喰らえ!【黒焔ダークフレイムゥゥ】!!!」




「な、なにぃぃぃいいい!? 黒き焔だとぉ!? それは魔王様にしか扱えぬ呪いの焔であるはず……あと【黒焔ダークフレイム】ではなく【黒焔ダークフレイム】!? え、おかしくね、それ。普通は【黒焔ダークフレイム】じゃん? 【黒焔ダークフレイム】だと、学名ゴリラゴリラゴリラのゴリラをゴリラゴリラゴリラゴリラって言ってるみたいな感じじゃん? 言葉は正しく使おうよ」




「はい」




 大体1分後くらい。


 黒焦げになった【伝説の呪龍】がHP1くらいの瀕死になった。




「いって、めっちゃいてぇ。……あー、いてぇ。死ぬかも、我死ぬかも。あー、このまま死ぬかも。あー嫌だなー、死にたくねぇなー。あー、あー。……死ぬのやだなー」




 めっちゃ死にたく無さそうにしてる【伝説の呪龍】……うわー気まずー。




「分かった。治すわ。【余の命に従え】治れ」




 気まずかったからめっちゃ早口で言ってやった。




「あ、治ったわー。いい感じに治ったわー。めっちゃ調子良いわぁ、ありがとう」




 関西弁のイントネーションで「ありがとう」と言った龍。




「あれ、ちょっと待って。君今【最上位命令】使ったよね?」




「はい」




 俺は「はい」と言った。




「……これまでのご無礼をお許しください、我が主人よ」




「……はい?」




「我が主人よ、貴方様こそが魔王様に相違ありません。【最上位命令】は魔王様にしか扱えない絶対のスキル。我は、貴方様に忠誠を誓います」




「ふーん。あっそ。手の平返しスゲー。しくよろー」




「あ、はい」




 そして、龍は人の姿になった。


 俺は驚かなかった。人型になるモンスターとか結構いるしな。




「よろしくでしゅ、ご主人様」


 10代半ばの美少女がそこにはいた。


 何故かメイド服を着ていた。メイドラゴンというわけか……。


 ちなみに、噛んだことは追及しない。


 可哀想だからだ。今も既に顔を真っ赤にして俯いているが、更に真っ赤になることは明白。




 ……やれやれ全く。俺もまだ人間らしい甘さを捨てきれないようだ。




「なんかついてくる感じ?」




「あ、できれば」




「まぁ、邪魔はせんといてな」




「あ、はい」




 こうして、最強の【伝説の呪龍カースドラゴン】が我が魔王軍の味方となったのだった。

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