第2話 勇者との死闘

 どうやら、現在大陸の西の拠点が勇者によって襲われているらしい。

 そして、西の拠点を護る幹部【ウホイ】の魔力反応が薄くなっているらしい。


 俺には分からないが、三人娘たちには分かるらしい。

 ちなみに、俺が目覚めたのは、もっとも重要な中央の拠点、いわゆる魔王城らしい。

 

「さて、準備が出来ました。これより転移魔法を発動します」


 クロナが言って、俺の手を握ってきた。

 ドキドキするが、童貞ポーカーフェイスで俺は威厳をばっちり守る。


「流石は、魔王様ね」


 かしづくアオイとアカリ。


「うむ」


 俺は頷いた。


「では、とびます」


 そう言って、クロナの力で俺は転移するのだった。



 転移したのは、建物の広場の中だった。

 ジャパンRPGのバトルステージに出てきそうな感じだ。


「ぐ、ああああああああっ!!!!」


 そして、転移した先で、真っ先に耳に入ったのは、苦悶の叫び声だった。


「この声は……ウホイ?」


 クロナがすぐさま反応した。


「む、ウホイのところへ征くぞ」


「……はい」


 クロナの表情が暗い。

 俺は彼女になにか声を掛けようとするが……やめた。

 無職童貞には、美女を励ますことは難しいのだ。


「こっちです、魔王様」


 クロナの案内で廊下を歩く俺たち。

 その間にも、苦悶の声、戦闘と思われるドカン! という爆発音がしょっちゅう届いてきた。


「……中々の力を持った敵のようですね。私たちがいれば不覚を取ることは無いでしょうが。万が一にも魔王様に怪我をさせるわけには行かないわ。二人とも、戦闘の用意はしておきなさい」


 クロナの声に、アオイとアカリは頷いた。

 どうやら離れていても魔力的なサムシングを感じ取れるようだ。

 俺にはいまいちよくわからないが。


 案内が終わり、俺たちはこれまで通った部屋で、最も大きな部屋へとたどり着いた。

 そこで。俺は初めて、殺し合いを目にすることになった。


「ユーシャ! 敵はもう少しでくたばる! 最後の一息だ!」


 かなり際どいセクシーな衣装を身に纏ったなんとなく魔法使いっぽい少女が、ゴリラみたいなごっついのと剣を交えている少年に声を掛けていた。


「ああ、オンナー! こいつを倒して、この西に平和をもたらすぞ!」


 ユーシャと呼ばれた少年は、かなり際どいセクシーな衣装を身に纏った少女・オンナーの声に応えた。


「おいおい、このアーチャーを忘れて盛り上がってくれるなよ!」


 両手にごつい斧を構えた、アーチャーと名乗る青年が、ユーシャと刃を交えるゴリラっぽい奴の背後から襲い掛かり、背中を切りつけた。


「ぐぅ、ごあああ! あああああああ!!! 負けてなるものか!!  我らが魔族の子らのために、貴様ら人間に、これ以上……これ以上、命を奪われてなるものかー!!!」


 ゴリラみたいなごっついの……おそらく、彼が【ウホイ】だろう。

 彼は、ボロボロになりながら、そして、血の涙を流しながら戦っていた。

 片腕は既に切り落とされ、片目は潰され、それでもなお膝を折らずに剣を握っていた。


「……人間(カス)どもめ。こんな、こんな虐殺を行うなんて」


「許せない、わね」


 クロナとアオイが殺気を迸らせる。


 無理もない、周辺は血の海と化していた。

 人と、異形の人間、おそらく魔人の者が、ぐったりと力なく倒れている。

 ……おそらく、既に命はないものと思われる。


「「「!!」」」


 クロナとアオイの殺気に反応する、ウホイと勇者一向。

 ウホイは安堵の表情を浮かべる。


 対照的に、勇者一行は皆一様に絶望を孕んだ表情をしていた。


「な、なぜ!? こんな西の辺境に[地獄の三姫臣]がいるんだ!? しかも、三人勢揃いで……ちくしょう、最悪のタイミングだぜ」


 ユーシャと呼ばれた少年が、壊れたおもちゃのように「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」と笑いながら叫んだ。

 ……地獄の三姫臣? とは、クロエたちのことだろうか?

 やはり三人娘は、めちゃんこ強いのだろうか?


 よし、あとで確認してみよっと。


「……人間(カス)風情が」


「あひゃひゃひゃあはん」という笑い声が癪に触ったのだろうクロナとアオイの怒りが頂点に差し掛かりそうになったタイミングで、俺は言う。


「【動くな】」


 その一言は、劇的な効果をもたらした。

 勇者一行だけでなく、殺気立っていた三人娘も、ウホイも、身動き一つとれなくなっていた。


 よし、これでとりあえずは俺のターンだ。ドロー! 


「ま、魔王様……なぜ?」


 クロナが悲しげな視線を俺に送ってくるが、俺には俺の考えがある。

 俺はウホイの元まで歩き、傷ついた彼の身体の傷を癒そうと思った。

 俺の力を、試してみる。



「【|余の命に従え(オーダー)】癒えよ」


 俺はわざわざ大仰に言った。多分カッコよかったと思う。

 俺の言葉の効果は大きかった。いつの間にかウホイの傷ついた体は元に戻っていた。


「この暖かな力は……?」


 ウホイは穏やかな表情で、俺に問いかけた。

 俺は一言「ふむ」と意味深に頷いたが、説明はしなかった。


 ウホイはゴリラのようなつぶらで、澄んだ瞳を変わらずに俺に向けていたため、思わず説明をしそうになった。

 しかし、ここは心を鬼にして、もう一度意味深に頷くに留める。


「な、何者だ!」


「一体全体、何だっていうのよ!?」


「このアーチャーの動きを止めるなんて……」


 ユーシャとオンナーとアーチャーが、身動き取れないまま、怯えた表情で俺を見た。


 勇者一行のことを念じながら、俺は宣言する。


「……図が高いぞ、屑共。【|余の命に従え(オーダー)】跪け」


 瞬間、地面に額をこすりつける勇者一行。

 しかし、今度は三人娘とウホイにまで影響が出ることは無かった。

 

 ……なるほど。この【最上位命令(グランド・オーダー)】というスキル。かなり使い勝手が良いぞ。

 行動の制限だけでなく、傷の治癒という【身体の状態】にまで作用することと、俺が意識して口にすれば、命令の対象者を限定することもできる。


 なんとまぁ、破格のスキルじゃないか。


 よくわからんが、俺の部下を傷つけた礼は、たっぷりとせぬばならんな。

 遥かな低みから俺を見上げる勇者たちを、俺は見下ろしつつそう思うのだった。



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