第1話 無職童貞ヒキニート転生

今をときめく無職童貞ヒキニートおっさんな俺は、三年ぶりに部屋から出ていた。




 理由は俺と同じように今をときめく大人気アイドル「超巨乳美少女JK郷家愛花」さんの記念すべき39,508サンキューゴーヤ枚目のニューシングルを購入するためだ。




 通販? なんとなく嫌だったから、外に出たのだった。




 久しぶりの娑婆の空気はうめぇ。


 そう思いながら歩いていると、横断歩道を渡るべらぼう可愛らしい幼女が目に入った。




「ひゅ~♪」




 口笛を吹いてこちらを振り向かせる。


 べらぼう可愛い幼女は不愉快そうに眉を潜めて、ぷんすかぷりっ、と歩を進めていった。




 そして、今まさにべらぼう可愛い幼女を轢き殺そうとする居眠り運転のトラックが俺の視界に入った!




「危ない!」




 俺は横断歩道に飛び出し、ずど……と幼女を突き飛ばした。


 びっくりした表情で、こちらを見ている幼女。


 その直後、とんでもない衝撃が全身に伝わり、意識が途切れた。







 多分俺はトラックにひかれて死んだ。そしてきっと、幼女は助かっただろう。


 曖昧な意識で、そう思った。




『ああ、最後に幼女を助けたんだから。来世では何不自由なく暮らせるようになりたいな』




 俺がそう思ったら、




『ウフフ、オッケー!』




 と、やたらテンションの高い女の声が頭の中に響いた。




『なんだ、今の?』




 答えが出るわけがない。


 しかし、その後。


 俺の意識は急速に覚醒へと向かった。







 目を開く。


 息を吸う。


 うす暗い部屋の中。


 辺りを照らすのは、紫色の炎。




 なんだかよくわからないが、俺の見知った場所ではないことは確か。


 と・いうか。


 俺はトラックにひかれて死んだはずだ。




 まさか、こんな陰気臭い場所が天国か?




「千年ぶりのお目覚めは如何ですか? ……魔王様」




 凛とした声が耳に届いた。


 魔王様とは何ぞや? そう思いつつ、声のした方を見ると。


 そこにはおっぱいの大きな美女がいた。




「儀式は無事に完了しました。すぐに意識もはっきりとされると思います」




 優しげな笑みを浮かべる美女。


 黒髪ロングの巨乳。


 ただ、その格好が少々エキセントリックだ。




 露出の多い、黒のドレスのような衣装。


 背中からは、悪魔の翼のようなものが生えている。




 よく見れば、彼女以外にも人がいる。




 赤髪の活発そうな幼女と、青髪のクールな印象を受ける10代半ば位の美少女。


 二人とも、やはり背中から悪魔の翼のようなものが生えている。


 日本人ではなさそうだし、その格好もコスプレだろうか……俺は不思議に思って首を傾げた。




「魔王様。人間との戦争も、ここしばらく激化の一途です。彼奴等を滅ぼすために、あなた様のお力を、存分に振るってください」




 恭しく頭を下げながら言う、黒髪の美女。




「そんなことを言われても、何が何だか良くわからないのですが」




 俺が首を傾げながら言うと、




「ま、魔王様!? ……ま、まだ記憶の混濁が酷いのですね、そうですね?」




 と、不安そうに問いかける黒髪美女。


 うーん。確かに、記憶はあいまいだ。


 死んだと思っていたのに、生きていて、しかも魔王と呼ばれる。


 なんじゃそりゃ、って感じだ。




 と、そう言えば目覚める前に何か言われたような気もする。


 確か、来世は何不自由なく、と祈った後に。




『オケー、ウフフ』




 てな軽い感じで言われたのだ。


 もしも、この答えた者が神様的なサムシングだとすれば。




 ……俺ってば、異世界転生しちゃった?


 チートでハーレム、しちゃう?




 疑いを確信に変えるため、俺は呟いた。




「ステータス、オープン」




 俺の声に応じて、三人の美女・美少女が




「きゃ」とか、「えっ」とか、短い悲鳴をあげてたけど、なんでだろうか。


 とりあえず、予想通り俺の目の前に自らのものと思われるステータスが現れた。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ステータス




Name 「俺」               


               ☆☆☆☆☆☆☆☆




         (`・ω・´)ゞ 




 【魔王】






  |攻撃・守備が最高の、|| 攻撃力 3,000 |


  |なかなか手に入ら  || 守備力 2,500 |


  |ない超レア魔王。  ||         |




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 もしかして俺、青眼ブルーアイズの白魔王ホワイトまおうに転生しちゃったのかな?


 しかも初期の奴なのかな?




「まさか、今のは……最上位命令グランド・オーダー!?」




「私たちのステータスまで丸裸にっ!?」




「こんなの、はじめてだよぅ!」




 目の前の美女・美少女・美幼女が興奮した面持ちで口々に言う。


 はて、俺は異世界転生のお約束のワードを言っただけなのだが、と思いきや。




 彼女らを見てみれば、ステータスウィンドウが確認できた。




 黒髪美女


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ステータス


Name クロナ レベル6


HP  S+


STR  S


MP  S


AGI  S


INT  A


LUK  S+




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




青髪美少女


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Name アオイ レベル6


HP A+


STR A+


MP S+


AGI S


INT B+


LUK S




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




赤髪美幼女


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Name アカリ レベル6


HP S


STR S+


MP A


AGI S+


INT D


LUK A+




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 なるほど、黒髪美女がクロナ。


 青髪美少女がアオイ。


 赤髪美幼女がアカリ、か。




 それにしても、俺とはずいぶん違うステータス画面だ。


 Sってのが強いのはなんとなく想像つくが、レベルについてはどんなもんなのだろうか?


 ……あと、INTが他のステに比べて貧弱だけど、大丈夫?




「ステータス、って。他人のは見れないものなんですか?」


 俺が丁寧な口調で尋ねると、




「……あ、ああ……」




 クロナさんが「ちゃうやん? 自分そんなキャラちゃうやん? もっと空気読んだってぇや!」というような表情をする。




 俺はちょっと気まずくなって、




「余は問う。貴様らには、他人のステータスを見ることが、できぬのか?」




 ちょっと大げさに大仰に尋ねかけると、クロナさんが嬉しそうな表情に変わった。「せや、あんさんようけわかってるやんけ!」という顔だ。




「ええ、その通りでございます、魔王様。ステータスとは、その者の価値を示すもの。決して他者には見せられぬのです。今も私たちは互いのステータスを見ることが出来ません。魔王様が、一方的に私たちのステータスをご覧になっている状態です」




「流石、魔王さまね」




「魔王様、すっげー!」




 クロナさんだけでなく、アオイさんとアカリちゃんも俺をほめそやす。




 やれやれ、俺は別に特別なことをしたわけではない。


 ただ、異世界転生者ならば誰もがやることを、当たり前のようにやっただけである。


 ただそれだけのことをしただけなのに、そこまで尊敬のまなざしを送られると……照れくさいものだ。


 やれやれ全く、これが転生特典のカリスマ性というものか?




 と、少し冷静になって今さらながらに周りを見る。


 ここは、儀式のための祭壇、のようなところか?


 周囲には魔法陣が書かれており、その中央に俺がいる。




 そしてこの部屋には俺を含めて4人のみ。


 三人の美女・美少女・美しき幼女とすっぽんぽんの俺一人、だ。




 ……そう、俺はすっぽんぽんなのだ。何も衣服を着ていない。


 興奮を覚えるものの、流石に何か羽織った方が良いよなーと、考えていると、黒いマントが出現。


 俺はそれをさっと羽織る。


 黒マントの下はフルチンだが、やれやれ、全く。これもいい経験になるだろう。




 ん、なんだ? 三人娘たちが驚いた表情をしているぞ?


 何を驚いているんだろう、と疑問に思っていると、




「……今のが、無から有を生み出す伝説のスキル【創造クリエイト】!?」




「さすが、魔王様ね」




「魔王様、すっげー!」




 と呆然とした様子で言う彼女たち。


 なるほど、マントを出したこれも、とんでもないスキルだったわけだ。


 だが俺は、特別なことをした訳ではない。


 ホイサ! とやったらできただけなのだ。


 なんだか……照れくさいぞ。




 俺はその照れ隠しもかねて、ちょっと渋めに宣言する。




「さて、貴様らに問う。余はこれより、何を成せばよい?」




 ……まぁ、ここまでくれば、もう疑う余地がないのだが。


 これは、異世界転生だ。


 しかも、チートでハーレムなタイプだ。




 人間ではなく魔王として転生し、多分人間と戦ったりするのだろう。


 ま、しばらくは様子見をしたいのが本音だ。


 元々俺は、人間の中でも争いを好まぬ理知的な存在だった。故に引きこもりニートをしていたのだ。


 だから、あんまり殺したり殺されたりは嫌だ。




「……御心のままに」




 三人が同時に呟いた。


 なるほど、俺の主体性に任せるというわけか。




 ならば、早速いこう。




「ならば、余を案内するのだ。……人間の勇者の下へ!」




 こうして、俺の魔王生活ラスボスライフが始まった。


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