自称神に拉致されてスローライフ?
ねりあん
第1話
平凡に高校を出て、平凡な人生を送って死ぬ
それができると思いつつ生き、就職した
だけど
昨日も怒られ、今日も怒鳴り散らされ。
自分は何一つ悪いことをしていない自覚があるのに。
なぜ上司は自分のことを目の敵にしているのか
いい加減会社を辞めようか。それとも死のうか
そんな思考での深夜の帰り道
ふらふら歩いてたら車に跳ねられたらしく
衝撃の後に視界がぎゅるんぎゅるん回ってまた衝撃
全身を強打したのか、頭を打ったのか。
水の中に入ったような感じで景色や音が鈍く感じる
(いやあ、あっけない死に方だなあ)
そう思いつつ意識が沈んでいく
・
「お前さん、お前さん」
いやにはっきりした高い声。女性なのだろうか
「お前さん、目が覚めたのなら起きてくれないかね」
背中の感触で地面ではなく、布団に寝かされているらしい
冗談じゃない。こっちは死んでいるんだぞ
声を無視するように寝返りを打つ
ふと気づいた。・・・寝返りを打つ?
死んだんじゃないのか?
「んごおぁ!?」
混乱しつつ、叫び声ともうめき声とも何ともいえないよう
な声を上げ跳ね起きると
「まあお前さん、寝ぼけているのもいい加減におしよ」
少々いらつき気味の女の声
未だはっきりしない頭を動かしつつ、周囲を確認しようと
目を開ける
「・・・どこですかここ」
たとえるならそう、田舎の一軒家
テレビで東北の山奥に村を作ったバラエティで見たことあ
るようなそんな屋敷の畳の上だった
「どこってここは、日渡村さ」
山と段々畑、谷地の上の方にあるらしいのを確認して。
いい加減声をした方に目を向ける
藍色の作務衣を着た、そう。年頃は20代後半らしき女。
とても明るい茶色の髪で天辺に二つ、二等辺三角形のよう
な。三角柱のようなと言うところだろうか。そんな特徴的
な髪型をしている
わかりやすくいえば『キツネ耳』と言う形
まあそんな髪型をした女がーーー
「まあそれよりどうだい、起きたなら一杯付き合っておく
れでないかい?」
酔っぱらってた。どういう事だよ・・・
・
長卓袱台に肘をつき、銚子をぷらぷらもてあそんでいる
女。
僕はようやくそこで布団から這い出す。いつの間にか着て
いたスーツから緑の作務衣に変わっていた。体を見てもど
こにも傷がない
「あの、それでなんでここに」
「まあまあ、それより一献。呑めば気分も楽になるさね」
女はそういうと僕に猪口を渡して、銚子の中の物を注いで
きた
「エラい白いっすね」
「ん、作ったどぶろくじゃからな。一口でだいぶ効くぞ」
「どぶろくってそれ密造酒・・・」
「気にするでない、ここは外の法律なぞ関係ない」
特に何も言えなくなったので、猪口の中身を呷る
「・・・」
食道から胃にかけて燃えるような感じになる
呑んだのは久々、しかも胃が空の状態で呑んだから
尚更ア
ルコールの回り方がとんでもないことになった
くらくらしている僕を見て、女がケラケラと嘲う。
「なんじゃお前さん、酒が弱かったのかい。いやあそれは
申し訳ないことをしたもんだね」
「いや、そうじゃなくて・・・」
反論しようにも寝ぼけ頭に酒で思考がぜんぜん働かない。
酔ったからなのか、女の髪の三角形がピコピコと動いてい
るような
「ああ、そうか。お前さん何も食うていないかったな。そ
れは酔いが回るはずじゃ。アテ出してやろう」
女が小皿を差し出してくる。アテとかじゃなくて度数高す
ぎるだけだって・・・すごい、ねむ、い
「あ、おい。お前さん・・・」
女のあわてるような声をBGMに
また意識がなくなった
・
辺りがオレンジ色になった頃、目を覚ました
また布団の中に入っているという事は、あの女が寝かせて
くれたのか、あるいは自分で潜り込んだのか
それはさておき
「えーと・・・」
見知らん土地にいて、起きたと思ったら酒呑まされて潰さ
れて・・・潰れてか?
そもそもどうやってここにきたのか
などと布団の中で考えていると
「お前さん、もぞもぞしているというのなら起きたのだろ
う。飯を作ったのだが食うか?」
味噌と醤油の香りが漂ってきた
腹もやたら減ったし、いただこうと起きあがる。
もうこうなったら毒をくらわばの精神だ
漬け物と味噌汁。白米の飯。それと煮物。
女は作務衣の上に割烹着
「さて、冷めぬうちに食ってしまおうではないか」
「待ってくれ、自分は金も何もないぞ。それに何でここに
いるのかもよくわからないんだが」
「いいから。その話は飯を食ってからにしようぞ」
もそもそ、と飯を食べ始める
まあ田舎料理、ということはあるが。どれもこれも素材が
いいのか
「うまいじゃろ、全部手作りじゃぞ」
「はあ・・・」
目の前で嬉しそうに、でも上品に食事をする女
よくわからないままもそもそ食べる僕
やっぱりわからない。何もかもよくわからない
食事が終わり、片づけも終わったのだろう。
女は割烹着を脱ぎ、
茶をすすっている自分の向かいに座るので
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
と、一通りに礼をする
「さて、お前様が何でここにいるか。でしたね」
女は自分の湯呑みに茶を注ぐ
「ええ、何でここにいるのか。何でもてなしを受けている
のか」
僕は茶を飲み干す
少しの静寂、真剣勝負のような秘めた空気
憂いを潜めた女の顔に夕日が射し込む
やがて女は湯呑みを置き、静かに、かつ厳かに言った
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