キャンディ

大西 詩乃

キャンディ

子供の頃よく通った公園があった。

家は母がよく男を連れ込んでいて、家に僕の居場所は無かった。公園にあったわけではなかったけど。

当時は友達もいなくて、ずっと、ただベンチに座っているだけだった。

だけどある日、隣に女の子が座ってきた。


「あなた、ずっとここに座ってるよね」


見るからに育ちが良さそうな女の子だった。

その時は貧乏だったから余計にそう見えた。


「え、うん……」


「ふふ、やっぱり!私もこの公園好きよ。だって、鳥がたくさん鳴いてて、きれいでとっても素敵な場所よね!」


「そう、だね」


「私はリサ、あなたのお名前は?」


この時の笑顔と揺れる彼女の茶髪が忘れられない。


「ぼくはリュウ、だよ、名前」


「じゃあリュウ君って呼ぶわね。私のことはリサと呼んで!」


「わ、わかった」


「お近づきのしるしに、はい!キャンディ、もらってくれる?」


「ありがとう、リサ、ちゃん」


それから毎日、僕らは公園のベンチで喋っていた。

その日から公園が僕の居場所になった。

しかし僕が小学6年のとき彼女は引っ越してしまった。

東京だったか、神奈川だったか、手の届かない所に行ってしまった。




そんな僕も大学生になった。

公園の思い出が忘れられない。未練たらたらで、駄菓子屋であのときもらったキャンディを見るとつい買ってしまう。

しかも東京の大学を選んだ。もし、会えたなら……。もう覚えてないかも知れないけど。

バイトの帰り道。

また、キャンディを買ってしまった。

子供の声が聞こえた。こんな所に公園があったんだ。

自然が豊かで、あのときの公園を思い出してしまう。

ベンチに座って休憩しようかな……。


「あ」


目を向けると女性が先に座っていた。それを見て固まってしまう。髪の色、少し微笑んだ顔、全部見覚えがあった。思いついたときには体が動いていた。

ベンチにそっと座る。


「君は、ずっとここに座ってるの?」


「え?え~と」


「ふふ、僕はこの公園好きだな。だって、自然豊かで、とっても懐かしい気持ちになるんだ」


「そう…ね」


「リサ、ちゃん、僕のこと……覚えてる?」


この時、やっとちゃんと顔を見れた。


「もちろん!」


彼女は、あのときと同じ笑顔を見せてくれた。


「じゃあ、お近づきの印にキャンディ、もらってくれる?」


「ありがとう、リュウ君!」


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キャンディ 大西 詩乃 @Onishi709

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