魔女の丘

とりすけ

丘の魔女

「じゃんけんぽん!」

「あーぁ、負けちゃった。」

「やーい!罰ゲームだかんな!」

「えー、本当に行くの?丘の上の魔女んとこ…。」

 僕は友達と4人でじゃんけんをして負けた。今日に限らず、僕たちはじゃんけんをしては負けた人間が度胸だめしをするという遊びをよくしていた。今日は、丘の上に一軒だけ立っている家の魔女と呼ばれる老婆に会いに行くという罰ゲームに僕が当たった。

「約束は約束だ。行ってこーい!」

「生きて帰ってこいよ。」

「魔女の家、中どんなだったか聞かせてね!」

 友達が口々に好きなことを言って送り出してくれた。


「はぁ。」

 ため息を一つし、魔女の家の呼び鈴を押す。暫くの沈黙のあと、ガチャリとドアが開いた。

「はい、どちら様?」

 魔女がドアから顔を出した。

「おやおや、小さなお客様。」

 僕が緊張で何も言えずにいると、彼女は僕より向こうに居る友達を見つけた。

「やべっ、こっち見たぞ!」

「にげろー!」

 友達は薄情にも一目散に逃げてしまった。魔女は何かを察したようで、僕を中へ招き入れた。部屋の中は、想像していたよりも人間の住まいだった。

「さて坊や。家に入ったからにはあんたはお客さんだ。お茶とお菓子をあげようね。」

 そう言って魔女は魔法でポットを動かしたりとかはせず、普通にポットのロックを解除して急須にお湯を注いだ。お菓子は動くカエルのチョコなんかじゃなく、袋に入ったカリントウだった。

「あの…。」

「なんだい?」

「あなたは魔女ですか。」

 勇気を振り絞って震える声で聞いた。だが、その様子が可笑しかったのか、それとも聞いてる内容が可笑しかったのか魔女は大笑いした。

「あっはっはっはっは!何を言うかと思ったら。はっはっは!」

 彼女は笑いながら僕にお茶とお菓子を出した。

「そうだよ、あたしは魔女だ!勇気を出して訪ねてきてくれたあんたには特別に魔法を教えてあげよう。」

「え!本当!?」

「あぁ、本当さ。お菓子を食べたあとに教えてあげるよ。」

 魔女は不敵に笑い、肘をついて指を組んだ。

「やった、僕、今日から魔法使いになれるの?」

「あぁ、なれるよ。実はね、魔法は誰にでも使えるのさ。」


 食べ終わった僕を、魔女は別の部屋に案内してくれた。そこはさっき見た人間らしいリビングとは少し雰囲気が違って、埃っぽい本だらけの部屋だった。

(わぁ、これとか呪文が書かれた本なのかな。)

 外国の言葉で書かれた本がたくさんあり、これから教わる魔法のことを考えるとワクワクした。

「さて。どんな魔法が知りたい?」

「ドラゴンを呼ぶ魔法!」

「ははは、ドラゴンは凶暴だから駄目だよ。呼んだら食われちまう。今日は、植物をぺったんこにする魔法を教えてあげよう。」

「ぺったんこ?どうやって?」

 簡単さ、といいながら魔女は一つの分厚い本を棚から取り出した。

「ここに、好きな草花を挟むだけ。あとは、この本が仕事をしてくれる。」

「わぁ!この本、ぺったんこ魔法の本?」

「そうだよ、だからうっかり指とか挟まないように気をつけるんだよ。」

「はーい!」

「じゃあこの花を本に挟もうか。」

 魔女は窓際に飾ってあった鉢植えのパンジーを3つほど詰んで本に挟んだ。

「ぺったんこ魔法は時間がかかるから、一週間後またおいで。」

 そう言って魔女は僕を玄関まで案内してくれた。

「このことは、友達には内緒だよ。」

「分かった、内緒にするよ。」

 僕は友達の居なくなった道を家まで走って帰った。未知へのスリルと、新しい知識へのワクワク。今日の僕は間違いなく充実していた。

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